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勇者ものがたり
出来れば厄介事はお断りしたいわけで

紅茶…美味しかったな…。





「ごほっ」
「ゆ、ユシア?大丈夫?」
「あ、ああ」


心配するトウマに応えながら恥ずかしさを誤魔化すように袖で口を拭う。


「レイン…お前というやつは…!」
「へ?先輩?なんですか?ちょ!痛い痛い!いたたたたたたた!うわああすいません!」






「はあ…。」

そういや俺も何度か取り調べみたいなのされたなーとかちょっと昔のこと思い出していたせいか、油断してた。

「そ、そうだユシア。良ければこれ、使って…?」

隣でトウマがおろおろしながら白い布を差し出してくれる。

「ありがとう」

トウマ…さりげなく俺の好感度が上がったぞ。
いやそんなことどうでもいいか。
俺はお礼を言ってそれを受け取った。



そして

改めて入ってきた男を見る。

うん。

何度見ても、あれだ。
お前等何してるんだ?…精霊



『わー』
『ふおー』
『ゆしあー』


――わさっ。

…まさにそんな擬音が当てはまりそうな程、大量の精霊が突然部屋に現れたその男を取り囲んでいた。
俺から見ればもはやなんか七色に光るもふっとした何かだ。


『ゆしあー』
『みてー』


あ、うん、見てる見てる。


『このひと』
『へん』
『ふしぎ』

あー…うん?そうだねとりあえず変なのは分かったから、くっつくのはやめなさい。
さあさあ離れる離れる


『おk』
『おけー』


きらきらと精霊が一斉に離れていく。

さっきまで精霊に大量にくっつかれてた当の本人は、全く気付くことも無くなにやら赤い騎士に向かって座り地面に頭を擦り付けていた。



…?

「トウマ、あれは何をしてるんだ…?」

「ああ、うーんと、多分、あれは『土下座』だと思うよ。僕も初めて見たけど、確か異世界のサムライっていう人達が行う最大限の謝罪のポーズだったかな。」

「へー」

俺はてっきり頭を踏んでくださいという意思表示かと。
なるほど謝罪か覚えておこう。だが絶対にやりたくはない








さて、
…それにしてもこの男、

精霊達が『へん』と言うのも頷ける。

確かに、変だ。それも悪い意味で





目を凝らせば、空色の髪をした男の身体をいくつもの光の筋が走っているのが見える。


それは幾重にも重ねられた異なる魔法だった。
複雑に構成され計算され掛け合わされ、目の前で能天気そうにしている男の首を中心に身体の内も外も支配するように、蔦を伸ばし絡み付いてる。

呪術…?だけじゃないか…。服従魔法…?それと追跡・監視・束縛…うえ、きもちわる。

これじゃ精霊達が興味を持つのも仕方ない。
正直言って、俺もこんな大掛かりで、悪質な魔法は初めて見た。


どこのどいつの仕業か知らないが、並の人間に出来ることじゃないな。というか、人間業じゃない。魔族か?うーん。

どちらにしろどこかにこんな魔法を掛ける者がいるという事実に引く。



「えーっと、せんぱ…ひっ!…た、たいちょ〜。今回の事情聴取って、例の件が絡んでるんですよね?それでどこまで話したんですか?

ああ!ちなみにこれはネオピトクッキーって言って今この村で絶賛大売出し中の菓子なんですけど〜」


まあ、あんまり関わりなくないし、深く見るのはやめよう。というか精霊のおかげで見えるし何となく分かるだけで、俺自体それほど魔法に詳しいわけではないしな。



「レイン、もういいからお前は黙っていろ。
…すまない。この馬鹿の所為で君たちには無駄な時間をとらせた」

「あ、いえ、そんなことは…!」

「単刀直入に言おう。君達…特にトウマ・ユリウス。君には我々が魔物を捜索する間、案内役として暫く協力してもらいたい。」

「え…?あ、いや、でも僕は」

「君の呪いの事なら、我々も知っている。出来ればそれも含めて君には今回の魔物討伐に協力してもらいたいと思っているんだ。」


それはつまり、

「…トウマを囮に魔物を呼び出すつもりか」




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