[携帯モード] [URL送信]
Diamonds


馬鹿みたいな事ばかりしていた時代、汚い空に向けて放ったお前の言葉がまだ忘れられない。

Diamonds

お決まりの悪が総出で集まる様なゴミの掃き溜め、ルイジアナ州のニューオリンズとは正しくワル打って付けのデパートみたいだ。
廃棄になった滑走路を仲間達と走り抜けた、何で走り抜けたって?車でもジェット機でもない、自転車で走り抜けたんだ。無理矢理後ろに跨って立ち、走り抜けるバイクの風を感じながら片手に発煙筒を持って空へと高く掲げて。そうだなまるでナポレオン・ボナパルト気取りのポーズでさ、空を真っ赤に染めてやろうと思った。そう、あの頃は何をするにも必死だったんだ。
町の角、港付近のおんぼろフラット。風通しの悪い二人の部屋はいつだって要らない物で溢れ返っていた。あるのは冷たいむき出しのコンクリートとダブルのマットレス、毛布が三枚に枕が五個。机なんてお上品な物はなくて、港からパクってきた木箱のお手製テーブルがひとつ。木箱に入っていたコロナ30本は全部その日の内に飲み干して証拠隠滅。木箱の裏に隠した正方形の包みは汚くガムテープで貼り付けにしたり、アレはお前の案だった。本当、お前って奴は昔から狡賢い男だった。
自前の巻きタバコを30分かけて二人でちまちま作ってさ、20本一気に吸えたら贅沢じゃない?とか何とか言って、全部に火を点けて煙を口移しで吸い込んではむせて笑った。馬鹿みたいに笑った。あの頃の二人は取り敢えず何かして笑っていなきゃ自制を保つ事が出来なかったから、笑うのにも必死。
フリーマーケットで安く手に入れたイルミネーション、数メートルのコードに繋がれた小さな電球がピカピカ色んな色に光るクリスマス用のイルミネーションを部屋の壁に貼り付けて即席プラネタリウム!だなんてお前は馬鹿みたいに笑った事が、俺は馬鹿みたいに嬉しかったんだ。本当は100カラット以上のダイヤモンドが欲しかったんだけど、俺にとっては部屋のイルミネーションがまるでダイヤモンドみたいにキラキラ光っていたから素直に感動した。中々にどうして、こんなにも綺麗なんだろうか。きっとお前の言葉が何よりも美しくてうっかり涙が出そうになったから綺麗に見えたんだ。
仕事は真っ当なのに就ける筈もなく、良く騒動を起こしてクビになっていた俺とは違って、お前は徐々に徐々に危ない仕事に手をつけ始めていた。
ミュールに始まってポルノビデオ、売春婦の元締め、最終的には何に手をつけたらお得で何から手を引けばクレバーなのかが分からなくなるくらいにはお前の手は汚れてしまっていた。賢いはずのお前がなんて馬鹿なんだろう、そしてお前のSOSに気付けなかったは俺はその何倍もの馬鹿野郎だ。
悪ふざけはするし、ギャングみたいに振舞う事も楽しかったからしたけれど、誰も本物のワルになる気は全く無かったんだ。
手を出した性質の悪いドラッグは全てお前が調合したオリジナルで、バッドな夢もセクシーでビッチな夢も何もかも見せてくれた。ウィードにも似た感覚のカプセルは胃の中でドロリと溶けてスペルマと共に放出、脳みそまで溶けちまいそうだよ、呂律の回らなくなった俺を見てハハと笑いながらお前は腰を乱暴に進めた。奥の奥、そのまた奥の更に奥。挿入した熱が蛇になって体中を駆け巡る感覚と快楽にすっかり溺れてしまった。
天井を見上げればうそ臭い人工スターでたくさんで、キラキラ瞬いてはチカチカとこちらの視力を奪っていく。うつろな瞳は互いに一緒だからぼやけや視界で互いを見定めるのは難儀な事だった。
こんなの、正気の沙汰じゃない。現実に戻った時、目にした朝日とうざったいくらいの真っ青な空が窓から入り込んできて視界を潰そうとした。夜の闇に光るネオンなんて見るもんじゃない、去年銃殺されたホームレスが呟いていたのを思い出す。
マットレスの薄汚れた沁みの数々、生臭い匂い、ダストボックスから出た使用済みスキン、隣で眠るお前、全てにおいて吐き気を催したからトイレに駆け込んでゲエゲエ吐き出した。全て吐き出して、もう胃液しか吐けなくなっても止まらなくて涙がボロボロ零れて頭を抱えながら泣きじゃくった。まるで後頭部を殴られたかの様な鈍痛、手足の痙攣、めまいに動悸、障害しか生み出さないドラッグを心底軽蔑した。バッドな夢だ、本当に、くそみたいな夢だ。
尚も泣きじゃくって腰の痛みに耐えていた俺の前に屈んで、お前はハハと笑った。"妊娠しちゃった?"そのうつろな瞳がとても恐ろしかったのを俺は覚えている。
その後はもう地獄だった、中に出されたものをき出す為に二人で小さなユニットバスに入りながら何度も何度もセックスした。嫌だって言ったのに、拒んだのに、圧倒的な快楽を覚えてしまった体はお前に従うばかりで、それがとても悔しくて、そして悲しかった。
お前から離れようって決意したのはあの時だったんだぜ?
それでも離れなかったのはやっぱり、お前の事、愛しちゃってたんだ。無償の愛ってやつ。だからそこにセックスなんて含まれなくても俺は良かった。ただ一緒にいられるだけで、それだけで良かった。だってお前、なんだか流れ星みたいなんだもん。すげえエネルギーを持っているのに神秘的で幻想的、エクスタシーなシューティングスターで、お前が隣に居てくれるだけで生きてるって感じた。
こんな中途半端な掃き溜めで生きていくには生きる理由が必要だった。だから俺はお前から離れたくても離れられなかった。例えお前が日に日に壊れていったとしても、俺は傍にあり続けようって考えていた。けど現実は映画みたいに甘くないよな。甘いハッピーエンドなんて用意されていないし、俺達は用意されたハッピーエンドになんか興味なんて無かったのさ。

"Shine bright like a diamond."
珍しく正気を保ったままのお前がこの日だけはなんだか妙にロマンチストで、呟かれた言葉にフハっとおどけて笑ってみせた。
フラットの屋上、柵なんて高級な物はなく、平らになっただけのそこに腰を下ろして二人でコロナなんて飲みながら煙草を吸ってゆったり過ごす。サンセットを見ながら、最初の頃みたいに馬鹿な事を言って笑い合って、凄く、生きてるって気持ちになって、また泣き出しそうになった。
肩を抱くお前が優しくて、少しだけ光を取り戻した金色の瞳に俺が映ってることが嬉しくて、思わずキスしてしまったくらいには、俺は舞い上がっていた。
"We're beautiful like diamonds in the sky."
耳元に囁かれる言葉のクサさに思わず笑って、空を見上げればオレンジ色の濁った空にうっすらと見える星。こんな腐った町でも星は見れるんだ、初めて知った事実に感動して星を指した。
じゃあアレが俺達?
そうかも。
笑ったお前がイタズラにキスしてくるから俺もそれに答えた。汚い筈の空がやけに綺麗に見えたのはきっと、お前がなけなしの正気を保って傍で笑っていてくれたお陰だったんだ。
俺の罪は、最後までお前の罪に気付けなかった事。

next>>>




あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!