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目覚めのモーニングは酷く気だるげにどんよりとした日光を風通しの悪い窓から侵入させては一護の瞼をチカチカと照らし出す。夢の浅瀬で見る日光の煌びやかさに暗闇が負けて、一護はのろりと覚醒した。すっかり買い換えたマットレスは真新しいゴムの香りがして嫌いだったが、古いマットレスよりも弾力があって寝心地は良かった。ブルーのシーツカバーをかけて肌触りを心地良くさせる、少しだけひんやり冷えたシーツが肌に気持ち良くて腕をうんと伸ばす。伸ばした先にぶつかるスペースに漸く目を覚ました一護が見たのは空洞だった。
買物にでも出かけたのだろうか、未だ眠た気な眼をこすりながら起き上がって、床に放置したままの灰皿とシガレットケースを取り寄せる。
お行儀悪くフィルターシガレットを咥えたまま、足を伸ばして灰皿を寄せた。シュボっ、安いライターで火を点けてからゆっくりと吸い込む。今日は午後から仕事だ。やっと見つけた精肉工場は今まで一番快適な職場で、一護にとって最も長く続いた職だった。ペイは安くても贅沢をしなければ充分に生活できる。それに一護は今の暮らしに満足している。狭いフラットの一室に、ダブルのマットレス、幼稚なイルミネーション、セパレートではないユニットバスに、風通しの悪い小窓、昔あったコロナの木箱は隠した粉と一緒に燃やして捨てた。
地獄だと思っていた生活が一辺したのはシェアしている浦原がギャング達と手を切った三ヶ月前。もう、ドラッグに犯された彼からの暴力もなくなった。手首をさすりながらフと小さく笑う。
手首の甲と脈付近に刻まれたダイヤモンドタトゥーはお揃いで、初めてのペイを貰った時に一護がプレゼントしたもの。二人合わせて400ドルと少々値は張ったが、一生残るものならば安い物だろう。考えながら再び笑って幸せを噛み締める。
朝日が眩しい、美しいと思ったことは正直無い。そんな生活を繰り返していたが、浦原の言葉が一護の全てを変えた。
ダイヤモンドみたいにキラキラ輝いている、シャインブライトライクアダイヤモンド。詩人気取りで言ってのけた彼の言葉が声がとても美しかったから、毎朝目にする太陽を美しいと思える様になった。
今日も頑張るか、短くなった煙草を押し付けて立ち上がり、うんと背伸びする。背伸びしたと拍子に唸りをあげた腹の虫が空腹を主張、買出しに出かけただろう浦原を持つにしてもこれは…腹が減り過ぎて倒れてしまいそうだ。コーヒーで誤魔化すか、とキッチンへ向かおうとした時に乱暴なノック音が部屋一杯に響いた。
何事だ、思って居留守を決めようと息を潜めていれば馴染みの声が必死に一護の名前を呼んでいたので慌ててドアを開ける。

「ヘイ、チャド…ドアが壊れたらどうしてくれんだ」
「一護…浦原さんが」

大柄な体に似合わない弱々しい声で放ったチャドの言葉に体中から一気に力が抜ける感覚がして、足がガクリと折れた。咄嗟に支えられた腕に縋りながらヒュっと息を飲み込む。

「…浦原が、なんだって…?」

この先を、自分は望んではいけない。チャドの続く言葉を、声を、望んではいけない。脳内から警告音が鳴り響いて偏頭痛までも呼び覚ました。

「…フリーウェイに飛び出した。」

killhimselfと響いた瞬間に意識がぶっ飛びそうになった。なんで、浦原…どうして。頭の中で駆け巡る思いと、薬物がすっかり抜けて健康な顔立ちで笑ってみせた昨日の彼が浮かび上がった。
なあ、お前。あの日、どうやって笑っていた?浮かんだ彼の笑顔に影が射す。
昨日、一昨日、先週、先月、三ヶ月前と過去に戻り行く映像全ての彼の笑顔が見えなくなって頭を抱えた。
お前、笑えてなかったのか?
なあ、本当は苦しかったのか?苦しいのに我慢して笑っていたのか?俺はそれを、幸せだと勘違いしていたのか?なあ、浦原。俺が用意してしまったハッピーエンドは、お前にとっては苦痛でしかなかったのか?なあ、浦原…。
とうとう崩れ倒れてしまった一護はチャドに抱えられながら浦原が運び込まれたと言うホスピタルへ向かった。
12月の、クリスマスの前日だった。

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あきゅろす。
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