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 応接室に通された政府一行は、向かいに腰を下ろした校長が差し出した一枚の資料に視線を落とした。
 女の子の顔写真が添付されている。
 氏名欄にはワゼスリータ・ロブリーとあった。今度の騒動を呼び込んだと言っても過言ではない、ゴルデワとサンテ人とのハーフである。
 勿論外務庁の二人はこの少女のことは知っていた。アリシュアに至っては個人的にも良く知っている子だ。
 しかし文部科学省員たちにはその意図が酌めなかったようで、「この子は?」と首を傾げる。
 しかし資料に良く目を通せば、この少女の正体は直ぐに知れた。
 母親の氏名欄に「フィーアス・ロブリー」とあったのだ。
 厚生労働省のフィーアス・ロブリーが世界王の妻だという事実は宮殿中が知っている。決して世間には公表できない公然の秘密という扱いだ。
「実はこの生徒が我が校に入学する際、当時の外務庁の長官の方がわざわざお越しになって私どもに全ての事情を説明していかれたのです。その上で、これから卒業までよろしく頼むと頭を下げて下さいました。
 しかし残念ながら、その後赴任してきたある先生がうっかりこの生徒の素性を外部に漏らしてしまい、ゴルデワの血が入っていると学校中に広まってしまったのです。
 ゴルデワと聞くと過剰反応してしまうのが我々の悲しい性です。大人でもそうなのですから、子供たちの反応はかなりあからさまでした」
 かなりデリケートな話題である。ファレスがそっと尋ねた。
「いじめが……あったということですか?」
 校長は暫し押し黙る。
「……事情を踏まえて担任教師などは経験豊富で理解のある方にこれまでお願いしていました。しかし定年退職してしまいまして、去年から新しく赴任してきた方が担任をされています。我々も彼女に指導はしたのですがどうにもおっかなびっくりというか……」
 まだ会っていないが、その教師の普段の様子が見えるようだ。
 ゴルデワというだけでどう対処していいのか分からないのだろう。本人にそのつもりが無くとも結果冷遇してしまっているのだ。その微妙な空気は当然生徒に伝染する。
 校長は無念そうに頷いた。
「私もこの子のことは入学当初から気にかけていまして、本人とも何度も接触していました。少し大人しいですが、思慮深く優しい子です。それが今の担任になってから全く笑顔を見せなくなってしまいました」
 彼女の血筋が周囲に知られてしまった以上、担任を変えれば済むという話ではなくなってしまった。また逆にそういった特別措置を取ることによってより孤立してしまう可能性もあったのだ。
「以前教育委員会にも相談してみたのですが……」
 校長はちらりと文部科学省の三人を見やる。教育委員会は文科省の管轄だ。
 その表情から察するに色よい回答は得られなかったようだ。
「――そんなこともあって以前からゴルデワに関する教育の見直しを考えてはいたのです。一応職員会議に掛けたりもしたのですが……」
 反対にあったのだ。先程の、そしてここに来るまでの教頭の反応を見ればそれが分かる。
 校長はずいと文科省員たちに身を乗り出し、政府として協力を要請した。しかし勿論、彼ら三人が勝手に答えていいものではない。
「外務庁からもお願いします」
 アリシュアが参戦するものだから彼らは苦い顔をする。
 無論整えなければならない書類も、根回しをしなければならない箇所も山のようにあるのは承知だ。
「先程校長先生が仰ったように、これまでのようにゴルデワを完全排除することはもう不可能です。だいたい、今の外務庁は世界王の顔も碌に見れない腑抜けばかり。この状態が連綿と続いて良い筈有りません」
 当然協力は惜しまないと付け加えてようやく、三人は唸りながらもゆるゆると頷いた。
「……まあ……何とか……やってみましょう」





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あきゅろす。
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