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 体育館には問題のクラス以外の全生徒が集められ、校長や文部科学省員たちが事情説明を行っていた。
 舞台上に立って話をしていた文科省員はアリシュアらが入って来るのを見つけると、速やかにこちらに話を振って来た。
「たった今外務庁の方が到着されました。皆さん、もう安心ですよ――――どうぞ、アリシュア・キャネザさんです」
 舞台上に注視していた教職員全生徒が一斉にこちらを向く。さすがのアリシュアも打ち合わせも無くこれだけの人数に見られて僅かにたじろいだ。しかし振られてしまった以上表に立たない訳にはいかず、渋々舞台袖に設えられた階段を上がる。
 マイク前を替わる際、文科省員を睨むのも忘れなかった。
「えー、皆さん。この度は――」
 アリシュアは如才なく現状説明を進めた。
 最も強く断言したのは政府が事態の収拾に全力で務めている事、そして今回関係したゴルデワ人には一切の非が無いことだ。
 これだけの騒ぎを起こしておいて「彼らは悪くないのだ」などと通るものではない。聞いていた方はどういうことだとざわめきだすし、後ろで傍聴しているファレスも不安そうだ。けれどアリシュアは言う。彼らは悪くないのだ。
 そもそも世界王二名は次元口の封鎖作業をしていたのだ。先程ロスカーに確認したことである。
 本来ならそれはサンテ政府がやらなければならない事だった。
 しかし勿論、この場で内閣が通さないとか元老院が渋っていると言っても仕方がない。国民性がそうさせていると言えるからだ。
 皆精一杯やっている、通り雨のようなものだと繕った。舞台袖に引っ込んでいた先程の文科省員が物凄い形相で睨んでくるが黙殺する。
 ここでゴルデワ人たちを悪し様に言ってしまえばそれが子供たちに固定概念として組み込まれかねない。今、どんなに理不尽だと思っても、ゴルデワ人だけを否定して叫び回らせてはならないのだ。
 一礼して壇上を降りても拍手は一つも鳴らなかった。広い体育館が無人のようにしんと静まり返る。
 アリシュアは真っ直ぐに校長の元へ向かい、自らの暴言とこれから起きるであろう非難轟々の起因を陳謝した。勿論アリシュアが校長に頭を下げている姿は生徒らに丸見えだ。
 校長は暫くぽかんとしていたが、アリシュアの肩を叩いて頭を上げさせる。
「生徒や保護者の感情を考えると、貴女の発言は容認できません…………が…………」
「? 何か?」
 校長はそれには答えず、自らを奮い立たせるように頷いて舞台上に上がった。そして宣言する。
「我が校に通う皆さんの保護者には昔も今も政府機関に勤める方が多くいらっしゃいます。卒業生の中には国会議事堂で働いている方もいます。そんな皆さんだからこそ、私は広い視野を持った大人になってもらいたいのです。目の前に降りかかった災厄を騒ぎ立てるばかりでは何も改善しません。そこから何を得てどう行動するのか、これは皆さんばかりでなく我々教師たちにも平等に与えられた試練です。
 皆さんが生まれる少し前からゴルデワとの国交が再開されました。皆さんが大人になる頃には今以上に彼らと関わることが多くなるでしょう。そんな皆さんに、私たち今の大人と同じ教育をすることはあなた方の未来の妨げにしかなりません。
 今回のことで私は決意しました。
 我が校はこれ以後、ゴルデワについて積極的に学ぶ教育現場として活動していきたいと思います。
 勿論、今すぐどうなると言うものではありません。皆様のご理解とご協力、また政府の援助無くして出来る事ではありませんから」
 その宣言は教師陣にとっても聞き逃せないものだったのだろう。教頭と思しき男が首から上を真っ赤にして舞台上に駆けあがり校長の腕を引く。
 校長は落ち着いた仕草でマイクを切る。小声での口論は直ぐに決着がついた。





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