134 対策本部は当然のように外務庁に立てられた。 第一執務局に近い会議室の一つを本部とする。シーズヒルに到着した先遣隊からの報告を先程出発した後衛隊に中継する。 さすがに二人揃っていつまでも空ける訳にもいかず、また命令系統に混乱も生じるのでマイデルはカウラと連れてきた部下たちを残して厚生労働省に戻って行った。因みにタインがこっそり確認すると本当に防衛庁長官を蹴り飛ばしたようだ。後で問題になったときどうするのか。 臨時に設えられた対策本部長の席には、内閣へ出向いているコルドに代わりカウラが座っていた。タインは外務庁を総括している。 厚生労働省は第一報を聞いた者として全面協力をしてくれている。勿論、世界王の妻を職員に持っていることも大きいのだろうが。 カウラの傍らには、必要省庁への申請書や先遣隊からの報告概要書が積まれている。電話、コピー機も用意され物々しい。 芳しくないのが文部科学省と内閣官房府だ。文科省は完全に怖気づいているし内閣は立て続けに起こった事件に強硬派が狂乱している。 その文部科学省の攻略から戻ったアリシュアは対策本部内のある変化に気付いた。出るときにはいた筈のフィーアスの姿が無い。近くの者に尋ねると少し前に制止を振り切って出て行ったという。 「え?」 フィーアスにとってあのビャクヤという男は信頼に足る人物なのだろうがサンテ政府としてはそうではない。動くにしてもとにかく真偽を確かめなければならないのだ。 そのために彼女にはゴルデワ側に連絡を取ってもらっていたのだが何処へ掛けても中々繋がらない。それが余計に不安を煽り、ようやく連絡が取れるとやっとビャクヤの言葉は真実だったと言質が取れたのだ。 さすがに世界王二名が同時に負傷とあってゴルデワ政府でも対応に追われていたようだ。 「事実と判明するや否や飛び出して行った。うちの者に後を追わせてはあるが……、まったく」 カウラは眉間を押さえて不満を訴えた。 フィーアスにしてみれば夫と娘の一大事だからじっとしていられないのも分かるのだが。ビャクヤの言っていた「交戦状態」という言葉が気になる。 クレウスの一件の対応準備として第三級特別警戒態勢を敷いていた外務庁からは比較的多くの職員をこの対策本部に派遣することが出来ていた。アリシュアは勿論、奇跡的にファレスも仕事を片付けてこちらにやって来ている。 アリシュアは今行って来たばかりの文部科学省第一執務局へ出発の旨を連絡すると、自らの仕事場に取りに行った車のキーをファレスに放った。 「私の車分かるでしょ? 表に回しといて」 「え、何処行くんですか」 「フィーアスを追いかけるに決まってんでしょ」 え! と悲鳴を上げる部下を背にアリシュアはカウラに詰め寄った。 「良いですね」 学校に関しては本当にどうなっているのか分からない。生徒の安否確認はもちろん重要だが、確認に行く本人がどうにかなってしまう可能性もなくはないのだ。 何しろ事態を問い合わせた学校では、どういう訳か問題の教室に行けないと言うのだから。 咄嗟に止めかけたカウラだったが、自分の上司の人を見る目を信じて容認した。 対策副本部長が頷くのを確認するとアリシュアは直ぐに電話に飛びつき、シーズヒルで武装集団を確保したラケイン警察署へ連絡を取る。これから向かうので、彼らが所持携帯していた武器一式の閲覧用意を要請した。警察でもこんな事態は初めてだったのだろう、おろおろとしている電話の相手に国家権力を振りかざして命じると、碌に返事も聞かずに電話を切った。 正面玄関に横付けされた車の側には文部科学省からもぎ取って来た派遣員三名がそわそわしながら立っている。 アリシュアは彼らを車に押し込むとファレスを助手席に追いやった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |