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「わあああああああああ!」
 迫る前方車両がふっと消える。しかし間を置かずまた別の車が視界に迫った。
 右へ左へ激しく揺さぶられる車内では出だしから悲鳴が鳴りやまない。
「ちょっと先輩! それは無理です! 無理無理無理無理、あああああ!」
 信号が変わるぎりぎりに滑り込む。後ろでクラクションが鳴らされたが、もう既に遠かった。
 青い暴走車両のスピードメーターは捕まったら一発免停も免れないほど速度が出ている。運転手の技術は巧みだったが同乗者たちはスピードに目を回した。
 そのうち、後部座席の一人が異変に気付いたのか絶叫の中で懸命に声を上げる。
「おい! 道が違うぞ! 何処へ行く気だ!」
 問題の小学校は逆方向だ。
 今更気づいたのかとアリシュアは呆れる。エルキオネ方面の高速インターチェンジが見えてきたところだった。
「先にシーズヒルで捕まえた連中の武装を確認するのよ。学校へはフィーアスが行っているし、恐らくもうそろそろゴルデワ政府が現場に踏み込んでいる頃だろうから」
「はあ!?」
「喋ってたら舌噛むぞ」
 言ってアリシュアは思い切りアクセルを踏み込む。車はこれまで以上の速度でぶっ飛び、高速を降りてエルキオネ州コルぺウス市に入るまで命乞いにも似た悲鳴は続いた。
 ラケイン警察署に辿りついた頃には四人ともぐったりとしていたが、アリシュアはそれに見向きもせず一人で署内に入って行く。
 受付に来意を告げると直ぐに担当者が呼ばれた。ヤンド警部補と名乗った小太りの男は挨拶もせず遺憾の意を露わにし、渋々アリシュアを奥へ通す。
 通された会議室には回収した武器一式と一緒に制服署員二名と先遣隊の一人が待っていた。彼らは会議用の長机を繋げた上にずらりと並ぶ見慣れない危険物を遠巻きにしている。
「ご苦労様です。どうですか?」
「……どうって……」
 先遣隊員は困ったように目を逸らした。実際、現場に立って呆然としてしまったのだろう。
 アリシュアを連れてきて直ぐに姿を消していたヤンド警部補が再び現れた。ここに通されるまでぶつぶつ文句を言っていたのに現場写真を見せてくれた。
 先程ビャクヤに見せられたのと同じ光景が写真の中に写し出されている。次々見ていくと、天然芝にべっとりと血が零れている写真があった。撃たれて、そこに倒れたのだ。
 血痕の写真が五、六枚続く。その次には高そうな乗用車が写っていた。
「その車は現場付近に鍵の付いたまま路駐されていたものです」
 ヤンド警部補の説明を聞きながら次の写真を見る。車内やナンバープレート、免許証が次々に現れる。
 免許証の顔写真は紅隆のものだった。
 外務庁が国土省と共同で発行した特別免許証である。名前はコーザ・ベースニックとなっている。
 この特別免許証の発行にはアリシュアも実際に携わっている。その時の苦労が思い出されていると、何か気にしているとでも思ったのか実物を見てみるかとヤンド警部補が申し出た。
「ここにあるんですか?」
「…………俺がここまで乗って来た」
 それまで一言も喋らなかった先遣隊員ロバート・ワードラがぼそりと告げる。彼には勿論、免許証の男が誰か分かった筈だ。
 つい一時間弱前まで世界王紅隆が乗っていた車を運転するのはさぞ勇気がいったろう。
「この車、後で引き取りに来ますのでそれまで預かって頂けますか? あ、それとも証拠品で暫く動かせませんか?」
 警部補は渋い茶でも啜ったような顔をする。
 写真を返すとアリシュアは早速ずらりと並んだ武器に向き直る。指紋対策にと差し出された白い手袋を礼を言って填めた。
 基本的に銃が多かった。
 アリシュアは慣れた手つきでそれらを調べていく。持ってきたデジタルカメラで一つ一つ写真を撮った。その表情は次第に険しくなる。
 昨日の件との繋がりが見えてきた。





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