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 現状だけを見ればシーズヒル丘陵に縛られた男たちがいる、というだけだ。実証されているのはそれだけで、穿った見方をすればそれさえもビャクヤという男のでっち上げとも言えた。
 しかしその荒唐無稽な話を外務庁は信じた。
 世界王二人が西殿の娘の学校で乱闘しているというのは全く未確認だが、シーズヒルに関してはすぐさま呑みこんだ。
 何故なら昨日捕まえたクレウスが証言した次元口の場所がまさにそこだったからだ。
 そこに武装した複数のサンテ人がいる理由は依然不明だが、とにかく直ちに対応を取らねばならないのに変わりはない。
「ロブリー、西殿ともう一人の世界王がシーズヒルに行ったのは本当なのか?」
 詳しく聞いていないとしかフィーアスには答えられなかった。ただし、北殿が夫と一緒に出掛ける支度をしていたのは事実だ。
「……その、キタカタ、というのは……?」
 タインが問う。世界王を名乗る者が複数人いるのは知っているが、直接関わる西殿以外の人物たちの情報など当然外務庁にはない。
「ディレル・クォーレという方で、国土管理や法整備を担当しているわ」
「そんな人があんなところに何の用だ?」
 フィーアスには答えられない。小さく首を振るしか出来なかった。
 マイデルが咳払いをして注目を集める。
「こんなところで顔を突き合わせていても何も分からん。とにかく誰か現場へやって確認とさっきの連中の拘束…………武器を持っていたから、警察でも逮捕してくれるが」
 どうする、と言外に尋ねられたコルドは首を振った。
 まだこれがどういう事態なのか分からない。シーズヒルは人目の少ないところとは言え警察が出動すれば注目を集めるしマスコミも嗅ぎ付ける。クレウスの証言があった場所なだけに無関係とは言い切れない。
 昨日捕らわれていたクレウスの頭上に流れていた『情報規制』の文字が皆の脳裏を過る。
「回収は警察に任せればいいでしょう。ただし、マイデル長官の仰るようにこちらから人を出して現場と警察上層部にしっかりと釘を刺して情報規制をさせます。また、あの男たちの所持していた武装一式は後でゴルデワ政府から提出を求められる筈ですので、それが可能なように手配させて下さい」
 対応を検討する輪に入って来たのはアリシュアだった。
「警察が展開している間に次元口が開いてゴルデワから人がやって来る可能性もあります。今度こそ防衛庁は出動してくれるんですよね?」
 じろりと見上げられコルドは一瞬身じろぐ。ゴルデワ政府への抗議が決定して安堵したのか、元老院も内閣官房府の強硬派も防衛庁の出動条件には全く目を向けていなかった。
「テルゴーストのことだから怖気づくだろうが、構わんさ。尻を蹴っ飛ばしてでも出させてやる」
「有難うございます」
 流石、いつも世界王紅隆にずけずけと物を言うだけあってマイデルは容赦がない。
「それから小学校の方には文部科学省にも協力を要請しないとなりません。勿論内閣にも」
 昨日の今日でまたこんな事態である。いよいよ内閣はゴルデワに対する不審を顕にするだろう。
 てきぱきと提案を出す姿に感心したのかマイデルにしては珍しく褒め言葉が出てくる。
「お前なかなか使えるな」
 アリシュアは苦笑しながら会釈した。
「恐れ入ります」
「もし外務庁に嫌気が差したらウチヘ来い、面倒見てやる。――名前は?」
「こらマイデル! うちの部下を勝手に引き抜こうとするな!」
 今はそれどころではない。
 直ちにチームが組まれた。
 一先ず先遣隊としてシーズヒルへ三名、防衛庁員を引き連れて行く後衛三名だ。防衛庁へは――本当に蹴り飛ばすつもりなのか――マイデルも同行することになった。
 後をカウラに託すとマイデルは早々に防衛庁組を引き連れて出て行く。コルドも直ちに部下達に指示を飛ばした。





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