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 唐突に処理能力を超えるような情報を告げられフリーズしかかったものの、コルドとタインは気を取り直すのが早かった。
 素早くアイコンタクトを交わし、情報の引き出しにかかる。
「その武装集団とやら、何故サンテ人だと言い切れるんです?」
 長官の台詞に、その背後で仕事をしながら聞き耳を立てていた職員たちは最もだと頷いた。ゴルデワ人が密入国したと発覚したばかり、しかもそのお陰で彼らはてんやわんやの事態になりつつあるのだ。
 同じ事態が再び起こったと思う方が自然だ。
 マイデルがビャクヤに促す。それに頷き、彼は何もない空中に向けて指をひょいと振った。
「!」
 外務庁員らと厚生労働省員らの間に突如として空間スクリーンが現れる。
 ――いや、違う。それはスクリーンにしては大きく、何より風が、草の匂いが、ここまで届くのだ。
「…………」
 あんぐりと口を開けていると、その穴は滑らかに壁際まで移動した。その壁近くにいた職員がギョッとして身を退く。
 穴の向こうにはよく知るシーズヒルの風景が広がっている。緩やかな稜線、広がる草原、眼下に広がる街並み……けれど今そこには縛り上げられた男たちが転々と転がる異様な光景があった。
 長方形に切り取られた穴の直ぐ傍らにも一人いる。ビャクヤはその中に腕を突っ込んで男を引きずり出した。
 床に放り出された男は衝撃に呻き声を上げる。その男に向かってビャクヤはべらべらと異国語を言い放った。厚労省職員を除きこの場に居る者は全員がゴルデワ語を習得している。故に、彼の口から飛び出た口汚い言葉に一様に眉を顰めたのだが、言われた男の方は声に振り向き恐怖の表情を浮かべはしても内容を理解しているふうではない。
「我々は警察だ。銃刀の不正所持でお前たちを一斉逮捕する」
 今度は明らかに反応を示した。それを横目に、先程厚労省でも別の男で同じことをしたのだとカウラから耳打ちを受ける。
 これだけでサンテ人と断定するのは性急だが、その可能性は十分にあった。
 用済みになった男を丘陵へ戻し穴を閉じたビャクヤは、ここからが本題だとばかりに切り出した。
「主と北殿を襲った弾丸はどうも普通の物ではなかったらしく、城へ戻る前に姫様を回収しに行ったのですが、北殿に異変が起きて現在まだそこに留まっておられます」
 今度こそ何を言われているのか分からなかった。そこ、とは……
「ワゼスリータ様の学校の教室です。私も報告へ行ってちらと見ただけですが、何やら徒ならぬ様子で……。二人は既に交戦状態に入っています」
 既にその知らせを聞いている厚労省の面々も顔色が悪い。
 殆ど反射でだろう、タインが尋ねる。
「…………どうしてワゼスリータを?」
「姫様のカウンタラクティズ能力が必要だと」ビャクヤは今にも倒れそうなフィーアスをちらりと見やる。「妃殿下ではこちらの政府に多大なご迷惑をかけてしまうと仰って……」
 マイデルが忌々しそうに舌打ちをする。
「既に迷惑を被っている」
「申し訳ありません」
 本来ならワゼスリータを連れ出して終わる筈だった。しかし教室で北殿の容体が急変、それに伴い彼の身に明らかな異変が起きたのだ。垣間見ただけのビャクヤにも分かる程に。
「まるで何かに憑りつかれているような……」
 馬鹿な、と呟く声が聞こえた。それは全員の心境の代弁だったろうが、実際に現場を見たのはビャクヤ一人、全くの出鱈目だと言い切ることも出来ない。
「とにかく、私はこれでお暇しますので皆様には出来る対応をしっかりお願いします。――妃殿下、どうぞお気をしっかり持って下さい」
 フィーアスは自らを奮い立たせるように何度も頷く。
「どちらかが斃れれば今の世界王政府は沈みます。どうぞ……」
 それだけ言い残し、ビャクヤは再び開けた穴の中に消えて行った。





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あきゅろす。
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