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ヒトリ季節企画
高杉晋助
3月14日。ホワイトデー。

去年のお返しは…いやお返しどころか会ってないし。

今年は、会えると信じてる。






"来月には迎え来っから"

この言葉が頭を回り続けてもうすぐ1ヶ月。

来月って3月だよね?

もう3月だよ?



この状態が続きすぎておかしくなりそうだった。

暇そうな銀時のところにでも行こう。

誰かに会ってないと気がおかしくなりそうだ、と私は万事屋へ向かった。

「あ。」

ちょうどいいところに銀時発見ー!

パフェ食べてる。1人で。

可哀相…

ハンカチで涙を拭うフリをして銀時に近付き、ポン、と肩を叩いた。

「わ!」

ベチャ。

スプーンに掬っていたアイスがテーブルに落ちる。

「あーーーッ」

銀さんのパフェがー、と嘆く銀時がうるさくて、冷たい目で見遣った。

「銀時、もうすぐホワイトデーだね」

「あ、うん」

無言のままパフェを食べている銀時のパフェに乗っかっているバナナを摘まんで口に入れる。

「あーーーーッ!!」

銀さんのバナナが、と嘆く銀時に「変態」と呟いて溜め息を吐いた。

「ねぇ銀時」

「あ?」

しくしくと言いながらアイスを頬張る銀時が顔を上げる。

「晋助って約束破らないよね?」

「さァ?」

「破ったことなかったよね?」

私の顔を見た銀時が訝しげな表情をした後、私の頭を撫でた。

「そうだな」

ほっと息を吐いて立ち上がった私を見上げた銀時に手を振ってお店を出る。

そのまま月詠に会いに行こうと吉原に足を踏み入れ、暫らくすると目に入ってきた派手な着物。

隻眼と目が合い、口を開いた晋助より先に畳み掛けた。

「なんでまた吉原いるの?堂々と浮気ですか!」

私1人が晋助の言葉に惑わされて考え過ぎて。

「何なの一体…もういいわ」

溜め息を吐いて反対方向へ歩く私の、腕を掴む晋助。

「おめェよー、俺の話も聞けや」

「嫌だ」

離して、と腕を振るうがびくともせず、嘆息した晋助を私は睨んだ。

「…吉原に美砂がいるって聞いてよ」

「は?」

「鍵開いてねェし」

「探しにきたってこと?」

あァ、と掴んでいた腕を離して煙管を銜える。

「…それならそう言えばいいのに」

ほっとしたように笑った私を一瞥すると、晋助は先を歩いた。



「……なんだこりゃ」

「え、」

「用意しろって言ったよなァ?」

右目の奥が光ってて怖い……

「いや、だから、あの、」

ホントに迎えに来てくれると思わなかったから、とは言えずに笑って誤魔化す。

紫煙を燻らし、ぐるりと部屋を見渡した晋助が懐から携帯電話を取り出した。

「え!携帯持ってたの?」

「借りモンだ」

確かに、使い方がたどたどしい。

「あァ俺だ」

よくわからないけど何人か人が来るらしい。

明日の夜に。

それまで荷物を片付けろと念を押され、晋助は出て行った。


そう言われても。

片付けるの苦手だし、と夕飯を作っていると晋助が入ってきた。

「おかえり。ご飯食べる?」

「あァ。…おい。全然片付いてねェように見えるんだが?」

「片付けるの苦手なんだよねー」

苦笑しながらお味噌汁を作る私に舌打ちをし、広くはない私の部屋を片付け始める。

あら。結構マメなんですね。

ちらっちら見ている私をギロリと睨むと「早く飯作れ」と大きな舌打ちと共に言われた。



晋助によって少し片付けられた我が家。

「ねぇ、私何処に行くの?」

「あ?」

「来てくれたのは嬉しいんだけど、何も聞かされてないのも不安というか…」

当分江戸には帰れないんでしょ?と俯きながら聞くと、お猪口をぐいっと飲み干した晋助が続けた。

「今生の別れじゃあるめーし、いつでも江戸に連れてきてやらァ」

「うん。そういうんじゃなくてね」

私がどんな立場で晋助のところに行くのか気になっただけなんだよ。

「あん?」

お酒を注いだ晋助の目が虚ろで、これ以上何を言っても覚えてないだろうと、私は「なんでもない」と首を振った。



1日がかりでなんとか部屋は綺麗に片付いた。

これ全部持っていけるようなところなのだろうか?

結局、晋助からは何も聞かされず、今日を迎えた。

「美砂」

「なに?」

窓辺に腰掛けている晋助が手を伸ばして私の手を引く。

距離が縮まると同時に、左手に感じる違和感にはっとする。

「え、え、晋助!?」

「言っとくが、返品不可だ」

「え、なに、」

ニヤリと口端をあげた晋助が、驚きで見開いていた私の目を捉えた。



「俺の嫁はおめェって決めてんだ」



返事より先に涙腺が壊れる。

ぼやけた視界に入る、左手薬指に輝く結婚指輪。

「おまえに泣かれんのは弱ェん、」

「…っ…泣いてないから」

ごしごしと指の腹で涙を拭っても、溢れてくる涙は止められなくて。

苦笑した晋助の指が私の涙を拭う。

「長ェ間、待たせて悪かった」

甘い香と晋助の匂いに包まれた私は慌てて首を横に振った。

「おめェにまで背負わすつもりはなかったが、」

「晋助」

顔を上げて言葉を紡ぐ。

「ありがとう」




一緒に乗った船で、私を「俺の嫁だ」という言葉で紹介してくれた。

連れて行かれた晋助の部屋は妙に暗くて。

「晋助晋助」

窓辺に座って煙管片手にこちらを振り返る晋助。

あぁ、この人が私の生涯の伴侶なんだな、とちょっと感動してしまった。

「この部屋暗くない?もっと灯り増やしたいな。それと、」

「美砂」

素直に近寄った私に、目を細めて笑っている晋助が耳元で囁いた。

「緊張してんじゃねェよ」

「してない、もん」

近付いてくる晋助に、目を閉じると静かに唇が合わさった。





貴方の匂いは甘くてやっぱり少し苦くて。

目が覚めた時、ぬくもりと共に貴方の寝顔があった。

左手には同じデザインの結婚指輪。



20100311

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あきゅろす。
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