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気づかないフリをしていた


『……あ、りがと』

『! ぇ?』


俺の胸にもたれていた頭はいつのまにか目の前にいて


『全部、口に出てたよ?』

『…まじで?』


―――嬉しかった


ふにゃりと、少し頼りなさげに弱く笑った雅

あ、初めて笑った


『あたし、さ
最近泣いてなかったんだよね』


―――だからさ、溜まりすぎちゃって抑えれなかった


また、何か考えるように遠くを見て

ふと気がつけば、雅は俺のシャツを握っていて

その手は、震えていた


寒さなんかじゃなくて、


『大丈夫、か…?』

『だ、大丈夫だから…
もうちょっと、付き合ってくれるかな』


俺は無言で頷いた



――…−、−−‐―


久しぶりに揃った家族団欒

三人でも十分な、少し小さめのテーブルに集まって

母さんの得意料理、グラタンを食べていた


得意料理といっても、滅多に料理をしない人が作るものだから

少ししょっぽかったり、生だったりするんだけど

でも大丈夫、母さんが頑張って作ったんだから


『悠乃、』


ふと父さんに呼ばれ、顔を上げると

父さんはフォークを置き、あたしに向かってスティックを差し出していた


『え? 父、さん…?』


それは、父さんのマイスティックで

父さんの部屋にあるマイドラムとセットのものだ


『父さんよりさ、悠乃が持ってたほうがいいと思うんだ』

『どう、して? 父さんの大事なもの、なのに…』


父さんのドラムを叩く姿に憧れて、あたしも始めて

その頃には、二年で次期パートリーダーも内定だった


きっと、父さんは分かっていたんじゃないかな

あたしが気を使ってることも、

父さんが母さんと日に日に喧嘩する数が増えてきたことも






(段々と冷めていくのは、気のせいではなくて)



 

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