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生徒会室を出て、次に向かうは風紀のところだ。代澤と崎村に会うために来たはいいが……こっちはこっちで別の緊張があるんだよな。緊張というか、懸念というか。主に代澤の性格的な意味で。
さっきの生徒会室で少し慣れたというか、落ち着いたため、さっきよりはすんなり部屋に入れる。津久見がノックして、今度は中から返事があってから入る。こちらは風紀の縄張りだからだろう。
中に入ると代澤と崎村だけが待っていた。他の奴らは外に出しているのだろうか。取り敢えず黙っていれば、代澤はぽかんとしていて、崎村は無表情の中目を大きく見開いていた。その顔ちょっと可愛いぞ。
「ええっと、久しぶり。んで初めまして。鏑木志麻デス」
二度目になる挨拶をすると、先に硬直から抜け出したのは代澤だった。すたすたとこちらに歩いてきて、すぐそばで止まる。そしてこれでもかというほどに顔を近づけて、
「こんな美人に化けるとはな」
と感嘆の息を吐いた。別に元の体に戻っただけで化けたわけではないのだが、それより。
「近い!!」
と、碓氷の声と重なった。ついでに拳も同時に出た。顎に向かった拳と横腹に向かった拳でダメージは分散して二倍だが。もちろん夏彦の体ではないのでちゃんと手加減してるし、拳ではなく俺はちゃんと掌底にした。
「代澤てめえ、こいつは俺のだ。近付いてんじゃねえよ」
「そうじゃなくても近付きすぎだろ。近眼設定でもあんのか、お前は?」
顎と腹を押さえている代澤はさすがにすぐには話せない程度にダメージが通っているらしい。
その間に崎村がこちらに歩いてくる。頭を下げるときの表情は元の一見無表情に戻っていた。
「八束くん……今は鏑木さんですか。津久見くんから話は聞きました。いろいろ大変だったようですが、また会えて光栄です」
礼儀正しく挨拶する崎村は前と違って、口調や物腰は変わらないものの年上にする態度になっている。少々寂しさはあるけれど、崎村のこういうところが俺は好きだ。
「ああ。俺も会えてうれしいよ」
「あなたが居ない間、そちらのお二人は大変だったんですよ」
「うん……ちょっとは聞いてる……」
たぶん、その分崎村にも迷惑かけたんだろうなあ。ちょっと前に碓氷に聞いたことだが、崎村と代澤は俺が消えた後、わりと早く見切りをつけていたらしい。元々幻のようなものだったと。寂しさは感じるけれど、その考え方自体はあまり嫌だとは思わなかった。そういうところがこいつらの良いところなんだなと思ったし、代澤と崎村の似ているところだとも思った。言ったら嫌がるだろうから言わないけれど。俺でも代澤に似てるところがあると言われればだいぶ嫌だから。
「でも、本当に碓氷先輩のものになってしまったんですね」
「ものって」
「そこだけは、少し残念です」
珍しく、崎村は少しいたずらっぽい色を目に宿らせて肩を竦めた。初めて見る顔にぽかんとしていると、視界が突然遮られた。それが、牽制するように横入りしてきた碓氷だとは考えずともすぐにわかった。
「碓氷」
「崎村。お前には世話になってるが、こいつは渡さないからな」
「わかっていますよ」
しかし制さずとも分かり合っている二人に、少しドキッとする。
なんだ、こいつら知らないうちに仲良くなってるじゃないか。郷原のことが苦手だった時の件もだけど、代澤のこともあって話は合うのかもしれない。ちょっとキュンとしたけど、断じて浮気ではない。そもそも、恋人と他人で妄想するのは果たして浮気と言えるのだろうか。
こういうことを考えてしまうのは、碓氷がBL的な性質を持っているからだろうか。それともまだ俺が碓氷が恋人であるという自覚が薄いからなのだろうか。
「ん?崎村は志麻が好きだったのか?」
それはまた追々考えるとして、取り敢えず復活した代澤には、もう一発お見舞いしておいた。碓氷と崎村を合わせると計三発になった。
「空気を読んでください、代澤先輩」
「お前はいい加減にしろよ?」
「つか、当然のように年上を呼び捨ててんじゃねえよ」
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