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3

最初に向かったのは生徒会室だった。せっかくの休みだというのに、わざわざ俺に会うために吉葉と高坂と郷原がここで待っているらしい。なんで郷原が生徒会室に?と思ってしまう俺は、まだ夏彦だったときの思考が抜けていないのだろうか。
扉を前に、緊張する。受け入れられるられない以前に、純粋にどういう反応をされるか、そして俺がどういう体でいけばいいのかわからなくて、不安定になった。居場所が定まらない。
深呼吸して目を閉じていると、左手が何かに包まれた。暖かさに驚いて目を開くと、碓氷が俺の手を握っていた。

「心配すんな。誰もお前を否定したりしねーよ」
「……っせ」

恥ずかしいので軽く蹴ってやると、強めに手を握られた。痛いじゃねえか。
ノックして、津久見が扉を開く。

「みんな、ナツだよー」

わかりやすいようにだろう、そう俺を紹介した津久見に続いて部屋に入れば、この短期間で変わるはずもない顔が揃っていた。
三人とも同じように、目を丸くして見開いている。
うおお、これだ。この反応が普通なんだわ。さっきの充明さんと滋さんが普通じゃなかったんだ、やっぱり。勝手に自分で気付いた碓氷も、先に凌に見せられていた津久見も普通じゃなかったんだわ。

「ええっと……初めまして、って言う方がいいのか?久しぶり……か?……鏑木志麻です」

へらっと笑って緊張を飛ばしながら自己紹介すれば、まず最初に動いたのは、吉葉だった。

「シマ…………?」
「うん、吉葉。久しぶり」

前みたいに駆け寄ってこないで、ゆっくり歩いてきた吉葉は碓氷の手から解放された俺の両手を包むように掴む。吉葉は、前にちゃんとシマって呼ばせてるから。

『ナツヒコだった、シマ?』
『うん、そう』
『俺の好きだった人?俺の……友達?』
『……うん』

肯定する。吉葉は俺を、シマを好きだと言ってくれた人で、俺の友達になった人だ。姿は夏彦を見ていたけれど、それは間違いない。姿かたちは騙していたような形になってしまったことが、この上なく罪悪感に駆られるようなことだけれど、でも、そこは否定しない。

『残念だった?こんな奴で』

けれどさすがに緊張は解けなくて、少し卑屈な言い方をしてしまえば吉葉はぎゅうっと手に力をこめた。先ほどの碓氷よりは痛くないそれは、少し震えている。けれど吉葉はその顔ばかりはちゃんと表情を作ってみせていた。拗ねたような、子どもみたいな顔を。

『ちょっと、思ったよりかっこよくって悔しいだけ』

それが可愛くてわしわしと撫でてやれば大型犬は嬉しそうに顔を綻ばせた。最初から表情を作るのがうまいヤツだったけど、こういう顔を作れるとは。誰ととか萌えとか抜きにして普通に可愛い。

「いつまでやってやがる」

と至福の時間を過ごしていると、低い声の碓氷に止められた。痛いくらいに腕を掴まれて吉葉から引き離される。

「シマと俺、友達。邪魔しないで」
「友達の距離超えてんだよ。こっちは恋人だ。離れろ」

……このやりとりに少し懐かしさを覚えてしまうのは、不謹慎だろうか。
取り敢えず大きな声で恋人とか言ってくる碓氷には恥ずかしいのでチョップしておいて、未だ呆然としている高坂と郷原を見る。

「お前らも、久しぶりだな。ええと、変わりすぎてて困るだろうけど」

そういうことだから。と、なんと説明していいものかわからない俺は言う。碓氷や津久見がどういう風に、どこまで説明しているかわからないので何をしゃべっていいかわからないのが難点だ。

「いえ、その……私たちも驚いているだけですから」
「あ、ああ!夏彦と全然違う感じで……かっこいいな!です!」

あ、名屋のしつけが行き届いてる。
動揺した場面でぎりぎり年上に敬語を思い出した郷原に、指導係の厳しさを垣間見た。突然の場面でその指導係本人もいない中敬語を思い出したのは及第点といえるだろう。
しかし、なんというか。

「自分の見た目でかっこいいだのなんだの、男に言われるのはちょっと気恥ずかしいな」

友達からイケメンだのなんだのふざけて言われることもあるし、女子からそういう評価を頂いたこともないでもないけど、ここの連中に容姿をほめられると照れる。特に生徒会なんて美形ぞろいで、郷原も顔を出している今かなりきれいな顔立ちしてるしな。
顔に出ているだろうから表情を誤魔化していれば、なぜか碓氷にため息を吐かれた。その奥の津久見は苦笑している。

「お前はもっと自覚を持て」
「志麻さんって、ちょっと変わってるよね」

どういう意味だ。変わってるのはお前らだ。


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あきゅろす。
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