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I want to cook with you
「あ、今日は某と政宗殿が出会って丁度一年記念日ではござらぬか!」

一人リビングでソファに横たわっていた真田は勢い良く起き上がると共に叫ぶ。
カレンダーに目をやって気付いたのだが、今日は記念日らしい。
今月頭に自分が書き込んだ大きなハートが今日の日にちに飾られている。

「これは日ごろの感謝を示す恰好のちゃんすというものではないか!」

政宗は幸い仕事で出払っている。さぷらいずというものに恰好のちゃんすだ!
思い立ったが吉日とはよく言ったもので、真田は行動を開始した。
真っ先に思いついたのはいつも政宗に任せっきりになっている、料理だ。
自分が晩飯を作って帰りを待っていれば驚くのではないだろうか。
すぐさま真田はキッチンに向かった。

冷蔵庫を開け覗き込むと昨日買出しに出たため、それなりの食材が揃っている。
挽肉とたまねぎが目に入ったのでハンバーグにしよう!といきり立つ。
材料となりそうなものを冷蔵庫からだし、キッチンに並べる。
ハンバーグは少し前に政宗が作っているのを見ていたから作れると思う……。

「まずは肉をこれに入れて混ぜるのでござろうか」

自分のために作ってくれていた政宗の手つきを必死に思い出す。
たしか肉をこのぼうるに入れて卵と野菜と混ぜていたと思う。
幼少の頃やっていたどろあそびのようで楽しそうだと思った事を覚えている。
……まぁ、やらせてくれとせがんでもやらせてもらえなかったのだけれど。

「あ、先にこちらを刻むのがさきではござらぬか?」

一緒に混ぜるのなら先に切るのが賢明だろう。
思うが早いかさきほど冷蔵庫から取り出したたまねぎを手に取る。
覚束無い手つきで包丁を手に取ると、たまねぎをまな板に押し付け振り下ろす。
両端の部分は見た目からして食して美味しいものは無いだろう。
これまた覚束無い手つきで切り落とす。
と、鼻の奥とも眼の奥とも取れる場所にツンと痛みが走る。

「うおおおおおおッ?な、なんだこの痛みはっ!」

初めて感じる痛みに真田は悶える。
包丁をまな板に置き、両手を目に当て擦る。
そうこうしている間に痛みは増し、涙まであふれ出てきた。

「いた…っ。いたいでごる、……まさむねどのぉ…」

痛みに負け泣きながら愛しい人の名前を呼ぶと、

玄関の施錠が開錠される音がした。

「ただいま……って、幸村?!」
「うおおおおおッ!まさむねどのぉっ!目が!目がぁぁぁ!」

予定より幾分も早く帰宅した愛しい恋人−−政宗に真田は飛びかかる。

「うおぁっ!?」

ドカッという鈍い音と共に政宗は背中を床に強かに打ちつける。
とっさに閉じた目を開けると視界いっぱいにくしゃくしゃな真田の顔が広がる。

「たまねぎが…目が…うぅっ…」

泣きじゃくる真田の断片的な単語の羅列で大体のことを政宗は察する。

「あー、玉ねぎを切ってたら目が痛くなったと。Right?」
「いえす、でござるぅぅ…」
「そのまま目を擦ったのか。馬鹿だろお前。くくっ」

あまりにも初歩的なミスに苦笑が漏れる。
視界に広がる泣き顔に手を伸ばし、頬に手を添え親指で両目から溢れ出る涙を拭う。

「ふぁっ、政宗殿ぉっ」
「いいから俺の上からどいて手ぇ洗え!目の痛みはほっときゃすぐ引くっての」

目を擦るのを止め流れる涙を総べて政宗の親指に預ける。

「ぐすっ…政宗殿は、博識でござるな…っ」
「ばーか。料理する奴にとっては常識だ。あと痛みの原因はnose、鼻なんだよ」
「そうでござったのか!某てっきり目にあると思って必死に擦っていたでござる…」
「それもまた悪循環。ったく、何しようとしてたんだ?」

呆れの混ざる口調で問われ、真田は本来何をしようと思っていたのか思い出す。
明けるのもなんだか躊躇われるけどなんだか一人ではやっていけそうに無い気がするので、
政宗に明け一緒に作業しようと思う。勿論理由は内緒。政宗も憶えているかもしれないが。

「実は…」

ハンバーグを作ろうとした矢先でこうなったと告げると政宗はくつくつと抑えた笑いを漏らす。

「それはmisfortuneだったなぁ、くくっ」
「笑い事ではないでござる!…で、一人では不安なので一緒にやってはくれまいか?」
「あぁ、いいぜ。ハンバーグだったか?ほら、作りにいくぞ」

上に跨ったままの真田に退くように示すと真田は素直に従いキッチンへ向かう。
政宗も起き上がりその後を追う。

「まずはその手をあらっちまえ。また目ぇ擦ったりしたら困るだろ?」
「分かり申した」

自分も外から帰ったばかりなので真田が洗い終わるのを見計らって手を洗う。

「で、どこまで進んだんだ?」
「肉をぼうるに入れたところで玉ねぎを切ってしまおうと思い立ったところでござる」
「オーケィ、じゃ、玉ねぎは俺が切っちまうからお前は米といで炊いとけ」

真田に指示を出すと自分も包丁を取り出し玉ねぎを切り始める。

途中まで切られた玉ねぎはなんだか歪な形状だ。
政宗は気にせず切ろうととりかかる。
適当にまな板に押し当て包丁を下ろす。

「!?」

と、左手で支えていた玉ねぎがカクンと動く。
どうやらまな板に押し当てた面があまり安定できた所ではなかったらしい。
軽く玉ねぎに刺さっていた包丁はその動きと比例し、政宗の左手の方向へ動き
政宗の綺麗な指に傷をつけた。

「って!…shit!切っちまった」

見る見るうちに赤が溢れ出る指を見ながら呟く。
するとすぐ横でせっせと米とぎをしていた真田が気付いて目を見開く。

「だ、大丈夫でござるか政宗殿!ちっ、血がっ!」
「大丈夫だ、こんなもん舐めときゃ治る」

慌てふためく真田を落ち着かせようと物の喩えのような感覚で言う。


すると真田は本当に政宗の血の湧く指を口元へ運び、赤い舌で舐める。

「おっ、おい!?ゆきっ!やめろっ!」
「?政宗殿が舐めれば治ると申すから……」
「それはものの喩えみたいなもんで…!」

怒鳴ろうと思った矢先に指を開放される。
手を離した真田はリビングに向かい絆創膏を取ってくると、政宗の指に巻きつける。

「これからは気をつけて切ってくだされよ」

にこっと笑いかけながら言ってくる。さっきまで泣き喚いた男が何を…!と思ったが

「あぁ、Thank you」

礼を言うに留める。まだ舐められた幸村の舌の感触が残っていてなんとなく気恥ずかしい。

真田がまた作業に戻るのを見て政宗は作業を再開させる。
次は慎重に、かつ迅速に作業を進める。
今度は傷つくことなく切りきる。目の奥がツンとするのを感じてshitと呟いた。

「幸村、セットしたか?」
「できてるでござるよ」
「じゃあこれとその肉とか材料をボウルに入れて混ぜろ。今回はお前にやらせてやるよ」

前回は幸村がやりたそうにしていたのを時間の関係でやらせなかった。
それを思い返し政宗は幸村に言った。

「ほっ本当でござるか!?政宗殿お慕いしておりますッ!」

本当に嬉しそうに口にしながら手をボウルに入れこねこねと混ぜている。
政宗は、楽しそうな幸村の様子を見て頬が緩むのを感じる。

「もういいでござるか?」
「あぁ、そんぐらいで十分だ。じゃ、あとは焼くから向こうでTVでも見てろ」
「分かり申した!楽しみでござる!」

スキップでもしそうなテンションでリビングに向かいテレビの電源を入れる幸村。
そんな様子を見届けると政宗は一掴み、こねられた挽肉を手にとり丸く形作る。
そして順々にフライパンにのせ焼いていく。

暫くたつと肉の焼きあがる、なんとも空腹を誘う匂いがしてくる。
と同時にご飯の炊けた音が炊飯器からする。早炊き恐るべし。

「できたでござろうか?」

ひょっこり顔を出し問う真田。

「あぁ、今そっちに持っていく。」

皿に盛り付けリビングの机へ運ぶ。真田は気を利かせて米を皿に盛ってくれていた。
政宗はぶどうのジュースとワイングラスを机に運ぶ。
各々のグラスに注ぎ、席につく。

「乾杯、幸村。出会って一周年記念、だよな?」
「憶えていてくれてたのでござるか!」
「Of course!あたりまえだろ?」

政宗はちゃんと憶えていたのだ。
今日は二人の出会って一周年記念日。
ワインがまだ飲めた年で無いのでぶどうのジュースであえるのはご愛嬌。

「これからもよろしく頼むぜ、幸村」
「勿論でござろう!慕っております故!」



愛の言葉を交わした二人はこの後、
互いにハンバーグを口に運びあったりして甘い時間を過ごした。

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