袋法師絵師
袋法師 第六段(末段) 原文
第六段(末段)
 法師、だいに召されてにしきの袋あたたかに被り、昼はいと暗き閨門けいもんに日の暮るるをひ、夜は夜もすがら光源氏の物好きと、ひとしくものしけるうちに、また尼前あまぜへ送られけるほどに、かさね、かさねとやらむ。根強こんつよき法師も、たいにまかりて、しぼられ、今、めずらかなる尼前あまぜに強く用ひられ、金石きんせきならぬ身なりければ、しだいに弱りくろみ、時々、目もくらみ、物だに、さのみ食はで、うつらうつらとしてはべるほどに、新参しんざんの時とはたがひ、兵士つわものの弱々となるままに、尼前あまぜも心よからずやおぼしけむ。物語ものがたりせし直居とのいの女に「裾分すそわけ」とたまひけり。
 女房は微笑ほほえみ打ちよろこび、有難き御情おんなさけとて、いそぎ法師の入りたる所に行きて見るに、よくねて、赤肌あかはだになりて、例のもの見えける程に女は胸せきあげて、添ふより、声かけれど起きず、つめれども目覚めざめず、息のしたにて、
「いやいや」
との声のみしければ、女はあこがれ、上に乗りかかり、すりつけれども、はたらくけしきなかりしほどに、あまりに耐へかね、おぼえず水こしの如くはせいだし、玉丘ぎょくきゅうしきりにすすみ、もだえ、また打ちたたけども、いらへもせず、きょうがるうち、夜も白々しらじらと明けにけり。
 かくて法師が困労こんろう尼前あまぜきょうを失ひ、かの女房も腹だてのあまりに、さまざまとささへはべるほどに、たいの方へふみへて返される。
 法師、今は弱り果てて、いのちありてのこと、よい思ひ、空死そらじはべれば、いづれも打ちおどろき、よその聞えもおほかたの空恐そらおそろしくや思召おぼしめしけむ。今は、さらばと法衣一衣いちいたまはりぬ。尼前あまぜの方よりも笠枕かさまくらそへて贈られければ、これを形見と打ちかたげて、古寺へこそ帰りける。
(了)





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あきゅろす。
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