炭酸 (完結)
意外な一面
そしてやって来た有休遊園地。
いつもと同じように平然と女子組を待つのは聡と勝政だけで、荒井はと言えば相も変わらずそわそわと落ち着かない。
「な、なあ!お前らなんでそないに落ちついとんの!?高須は告白あるし青山はある意味デートやろ!」
「別に緊張しないよ?自分の気持ちを伝えるだけじゃないか。」
「デートって言ってもよ、いつも二人で居れば毎日デートなんじゃねえの?」
「なんやねんコイツら大人!俺なんか喋るだけで緊張すんのに!」
「純情なだけじゃ駄目なのさ。こっちがリードしてあげないと。」
「度胸ねえのな荒井って。男を見せろよ。」
「うるっさいわ!くそう…ええもん、俺も頑張ったんねん…」
「皆お待たせ〜!」
何も知らない彼女を迎え(拉致)に行った美和子が環と共に私服姿で現れた。
「おっ、来たな!俺の美和子〜!おはよう!そして愛してるぞ!」
「恥ずかしいって言ってるでしょバカ!」
「ええと…おはよう。」
「おはよう塚本。突然ごめんよ、強引に連れて来ちゃったね。」
「ううん、いいの。荒井先生が辞めちゃうんなら挨拶くらいしたいし…私も生徒会メンバーだから。」
「ん?ああ、そうだよな!」
環との挨拶を終えた聡に美和子がささっと近づき、他には聞こえない程の小声で呼んできた。
「環には有休取ったら荒井が学校来ないでそのなりで辞めるから、せめて生徒会で思い出を作ってあげようって言ったの。」
「成る程な。ありがとう榊原。」
環が納得する有休内容を教えてもらった所で、入場券を買いに行っていた荒井がこちらにやって来た。
「ほらほら、挨拶はそんくらいでええやろ。行くで〜!」
「ふふ、なんか荒井先生お父さんみたい。」
「行くぜ親父ー!」
「全部乗るわよー!」
「おぅわ!ちょ!?お前ら待てや!」
荒井が入場券を配り終えたと同時にバカップル二人が荒井の両手を引っ張り、風のように駆け抜けて行った。
あっと言う間に取り残されてしまった聡と環は暫く唖然としたまま、動けずにいた。
「行っちゃった…ね。ど、どうする?」
「二人で行くのは嫌かな?」
「えっ?ううん、いいよ。」
「じゃ、行こうか。」
「う、うん…。」
すんなりと差し出した聡の手に少し戸惑いながらも環は彼の手を取り、遊園地へ入場した。
「やっと出発したな。あいつら。」
「高須君やるわね…さりげなく手なんか繋いじゃって。」
真っ先に入場したバカップルとおまけの荒井は聡の告白と二人の行く末を見守るべく、入口にあった大きなオブジェの影に隠れていた。
「んな事して何が楽しいんや自分ら。」
「何だよ?楽しくねえの荒井。」
「さっさとまゆちゃんにコクればいいのに。」
「ああああ!ほら!見失うで!」
「よし!行くぞ美和子!」
「…!うん、マサっ!」
「あーあっつ。暑苦しいわあ〜。」
目の前で意図も簡単に繋がったバカップルの両手が、雰囲気がもうすべてが暑苦しい。絶賛片思いチキンの荒井には痛い光景だ。
そんなバカップルとチキンにつけられている聡達は最初のアトラクションを決めようとしていた。
「塚本。何乗りたい?」
「んー…じゃ、じゃああれ。」
「OK。さあ行こうか!」
「初っぱながお化け屋敷?塚本って男前なんだなー。」
3人は遊園地の植え込みに隠れながら腰を落としてお化け屋敷へ向かう。
周りから珍獣でも見るかのような視線が刺さっているが気にしない。
「環とお化け屋敷行くと凄く怖いのよね。あの子ったら天然でお化け屋敷の設定とか裏事情喋るから…。」
「案外高須がダメやったりしてな。アイツいつも笑ってっからわからんけど。」
勝政達がお化け屋敷の出口で待機する一方、聡達はお化け屋敷の真っ只中にいた。
どうやらこのお化け屋敷は廃病院をテーマとしたものらしく、患者やナースのお化けが襲いかかってくる。
「結構暗いなあ。塚本、足元気を付けろよ!」
「うん、ありがとう。でも高須君も無理しないでね。」
「ははは!大丈夫さ!全然怖くないよ!」
男として好きな女子を気遣うものの、お化け屋敷を侮っていた。
何とか笑ってみせた聡だったが、勘の鋭い環相手にいつまで続けられるのやら。
「あ、確か此処でマチコさんが惨殺されたの。」
「へ、へえ。そうなんだ…知らなかったよ!」
暗い廊下から順路に沿って隔離された手術室へ入る。
さりげなく環を庇いながら血に濡れたそこを通り抜けようとした時、環があっ!と何かを思い出したかのように話始めた。
「多分あのベッドの辺りかな?血が飛び散ってる所でね、マチコさんに呪い殺された担当医の首が見つかったんだって。」
「設定が細かいんだね、ははは!」
「本当にあった話も混ぜてあるらしいから、細かいんじゃないかな。」
「へーそうなんだ!」
聡は爽やかな笑顔を張り付けたまま、一気に手術室を颯爽と出て、襲いかかるお化けなど相手にもせず出口へと急ぐ。
「マチコさんはね、病院の先生達に人体実験の材料にされた後で口封じにメスで「塚本!!あっちが出口みたいだよ!!」
男としての役目を無事に果たした聡は、脈打つ心臓の音と冷や汗を止めようとしたのだが、それは無意味だったようだ。
「やっぱり怖いの苦手だったんだね。高須君、無理しないでって言ったのに。」
「ごめん塚本。今度からは君の前で無理はしないよ。」
「私こそごめんね?つい癖で喋っちゃって。私とお化け屋敷に行った子は皆、私の話が一番怖いって言うから…高須君も怖かったよね…ごめんね。」
「いいさ、気にしないで次を楽しもうよ!ほら行くよ塚本!」
恐るべき癖があると発覚したが、それでも好きな事に変わりはない。ただこれからは一切我慢せず、二人で楽しめるようにしよう、そう決めた。
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