炭酸 (完結)
有休を掴み取れ!

「あ、いや!その…高須君、怒ってる?」

「ハハハ!聡が怒るとか!爽やかブラックかよ!うーけーるー!」

「こんな時まで茶化すなんて…やっぱりアンタ馬鹿だわ!!」

美和子は両手を叩いて大笑いする勝政の頭をスパンと叩いて止めさせた。

「怒って無いよ?ちょっとびっくりしただけで。」

後ろから颯爽と現れた聡から何か黒いものを感じたのは気のせいだったらしい。

「「え?」」

「むしろ感謝してるかな。こうなった以上、告白しようと思うんだ。」

「ほらみろ美和子!全然だいじょぶだったろ?」

「で、でもいつどうやって環に告白するのよ!」

「そこなんだよね…。何かいい方法は無いかな?」

出来れば今週中がいいんだけど、と聡は呟く。
友のために何とかくっつけてやりたい、恋のキューピッドとか一度なってみたいという私情にまみれたお節介魂が働いてバカップルは考えを絞り出す。

「……は!そうだぜ!明日塚本拉致って遊園地行こう!」

「ええっ!!?ちょっ、何言ってるのよ!明日は普通に学校よ!授業はどうするのよ!」

「遊園地かあ〜!いいね!」

「いいねじゃないわ!!サボるなんて駄目よ!」

「固いことゆーなよ〜。」

「絶対ダメ!生徒会役員と会長がズル休みなんて認められないわ!」

「だいじょぶだって!!」

俺に任せろと言わんばかりの彼に連れられて3人は教室を出る。勝政は自信満々で職員室の前に立ち、勢いよく扉を引いた。

「邪魔するぜー!!」

「「邪魔するなら帰ってー。」」

「あいあいさー!」

勝政と先生達の会話は、どこの新喜劇だと思う程スムーズに職員室から出てきてしまった。

「…って、何で出てきてるのよ!」

「いやぁついいつもの癖でさ!」

「いつも職員室で何してんのよバカ!」

「何って…漫才?」

「だから職員室に居た先生達が揃って答えた訳か〜!さすがだねマサ!」

もうどれだけの回数行われたのだろうか、職員室の職員全員が勝政の方を見もせず声を揃えるあの流し加減はプロ並みだ。

「流石じゃないわよ!ほら、もう一回!」

「押すなって美和子!」

「なぁにやっとんのや職員室の前で。」

「「「あ。」」」

「んあ?」

▽生徒会メンバーはカモを見つけた!


勝政達は絶好のカモである荒井を空き教室へ連行し、今までの経緯とバカップルさ加減を一方的に喋り尽くした。

「って訳で、手伝ってくれよ荒井!」

「無理に決まってるやん☆ゲフゥゥッ!!!」

荒井がプジヤのペコペコちゃん風な笑顔で拒否したので色々耐えきれなかった美和子のボディーブローが炸裂した。

「ちょ、ひどい!俺せんせい!榊原せいと!暴力ダメ絶対!」

「ごめん先生、なんかイラッときたのよ。私…男のペコペコちゃん受け入れられないみたい。」

美和子は明らかに加害者なのだが、まるで被害者のように自身の肩を抱き、怯えた表情で荒井を見下ろす。

「荒井なら引き受けてくれると思ってたんだけどなあ。」

「ちょろいもんな、荒井って。」

「お前らアホやなあ〜。確かに俺はちょろいけどやな、職員室での役割もちょろっとなんや。あ!今上手いこと言ったやんな俺!」

「上手くない上手くない。」

「ちぇっ。最近のガキは手厳しいわあ〜。」

荒井はそう一言告げると自然な流れを装いながら、そそくさと職員室へ戻ろうと踵を返す。

「おいこら逃げんなああああ!!」
「逃げるなんて卑怯じゃないか!!」
「生徒のお願い位聞きなさいよね!!」

廊下に響く程の大声で叫んでも荒井の足は止まらない。ならば仕方ない、生徒会メンバー達は目配せをした。

「生徒会室私物化してるくせにあり得ねえよな〜!」

「全くだよ!おまけに俺が貸してる漫画未だに返さないんだよ?もう一年以上さ。」

「教師の風上にも置けないわね!まゆちゃんの写メ頼まれてたけど送らないでおくわ。」

「あー!!もう!うるさいやっちゃな〜!わかった、わかったからちょい待ちいな!」

案外大声で叫ぶよりも会話程度の音量で後ろめたい話をされる方が聞こえてしまったりするのだ。
荒井は今までに無いスピードで聡達の元へすっ飛んでいき、彼らを再び空き教室に押し込んだ。

「やっと乗り気になったかい?」

「お前ら怖すぎ。まぁ、俺も丁度良かったし…ええか。」

「ん?丁度良かったって何が?」

「俺な、教師やめんねん。」

「「「ええっ!?」」」

荒井は普段から教師らしくもなく、職員室での評判も悪いい。
年上の職員と反りが会わないからいつか辞めるに違いないと噂されていたが…まさかこのタイミングとは。

「なんでだよ!?」
「まゆちゃんかわいそう!!」
「せめて告白してから止めなよ!」

「だあああ!今は俺とまゆの話やないやろ!!
とにかく!俺は辞めるから有休取らんとあかんねん。その有休使うてお前らの保護者として遊園地行ったる!」

「成る程!保護者が居れば補導にビクビクしなくていいんだ!」

「荒井にしてはやるじゃない…。」

「ハッ!美和子はやらねーぞ!俺んだ!」

珍しく荒井を誉めた美和子を見た勝政が変に勘違いをし、無駄なアピールをする。

「誰が相手にするんや、こんなぺったんゴフウゥッ!!!」

「もう一回言ったら潰すわよ。」

「ひゃい…!」

「榊原かっこいーい!」

美和子は決してぺった○こではない。
ただ少し標準より小さいだけなのだが、本人にそれを言うと確実に荒井の二の舞となるだろう。

「そんじゃ、明日の10時に遊園地前集合な!わかったか荒井!」

「へいへい。つか高須、お前はちゃんと明日コクりや。告白せんと俺の有休が泣いてまうわ。」

「大丈夫、無駄にはしないよ。」


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あきゅろす。
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