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この四角い世界の上で



「おーい、誰かいるのかぁー?」


突如聞こえた声は、場違いも甚だしいほど呑気なもので、それまでの緊張感が一気にほどけてしまった。がくっと肩を落とした5人が再び顔をあげると、さっきまでそこにいた狐はいない。最初の首なし武者と同じく、消えてしまったのだ。

面食らっている間にも、トントントン、と階段を下りる音は近づいてきて、待ち構える5人の前に姿を現したのは5人と同年代の男が2人。1人は背中まで伸ばした銀色の髪をひとつにくくっていて、もう1人は栗色の髪で細いシルバーフレームのメガネをかけている。どちらにしろ、特徴的な恰好だ。


「アンタ達もこの学校に閉じ込められた口か?」


銀色の髪をした方が言った。階段の上から声をかけてきたのは、こっちの方らしい。
泉が頷いた。


「アンタ達もってことは、そっちも閉じ込められたわけ?」
「ああ。なんとか外に出ようとためしているけど、全くダメだ。外に出たと思ったらまた校庭に入っているんだからな」


いい加減にしたほしいぜ、とぼやくように銀色が頭の後ろで手を組むと、栗色の方がふと気づいたように言う。


「すみません自己紹介がまだでしたね。僕はトウカイといいます」
「俺はキョウ。よろしくな」


栗色もといトウカイが言うと、銀色の方も付け加えたように言う。ニッと歯を見せるキョウの笑い方は、自分達と同じ体育会系だと感じさせた。


「ひとつ聞きたいんだけど、トウカイ君とキョウ君は地元の人?」


阿部が尋ねると、トウカイとキョウは首を横に振る。肩を落とす5人。残念がった様子はトウカイとキョウにも伝わった。


「つー事は、そっちも地元じゃないのか」


5人の反応から、尋ねるのではなく確認するように言ったキョウに、阿部は力なく頷く。


「ああ、俺達は林間学校でこの近くのキャンプ場に来ているんだ」
「へえ、どこから?」
「東京の蒼夏高校」


何の気なしに答えた阿部だが、学校名を口にした瞬間、トウカイとキョウが僅かに身じろいだ。

蒼夏高校を知っているのだろうか?

宇井が訝しげに眉間に皺を寄せた時、高沢がある一点を見て目を丸くさせていた。何か言いたいのに、口はパクパクと動くだけで何の言葉も発さない。
高沢の不審な様子に、真っ先に気付いたのは泉。高沢と泉は幼馴染、加えてダブルスを組んでいるので、パートナーのいつもと違う様子には敏感だったのかもしれない。


「啓太、どうかし…」


泉の言葉はそこで途切れた。
それでも皆にはしっかり届いていて、それが幸いした。不思議に思った宇井達は、泉が高沢の視線を辿ったように、泉の視線の先を辿ると、そこには大きな顔があった。もしかしたら胴体もあるのかもしれないが、顔の大きさは廊下の幅と高さとちょうど同じなので、体までは解らない。

ただ解るのは、この顔が自分達にとって有効的な存在でないということだ。上下に一対ずつある巨大な牙をガチガチと鳴らして、今にも7人に襲いかかろうとしている。


「逃げろ!」


宇井の一声で7人は一斉に走り出した。顔はガチガチと歯を鳴らせながら追いかけてくる。


「なんだよあの顔!正月の獅子舞か!?噛んでもらったらいいことあるってか!?」
「そんな訳ないよ!いいから早く!」


パニックになる阿部の背中を、深津は必死に押す。
巨大な顔に追いかけられるなんて、阿部だけでなく誰もがパニックだ。悲鳴を上げながら、とにかく走っていると、トウカイが「あそこ!」と叫ぶ。


「扉が開いています!あそこに入りましょう!」
「なるほど!あの獅子舞はまっすぐにしか走れないようだしな!」


高沢が賛成すると、一行は右へ急旋回。扉が開いていた部屋に飛び込む。雪崩れこむようにして入ると、即座に顔、もとい彼等が言う獅子舞が入ってこられないように扉を閉める。
一行を追いかけていた獅子舞は、やはりまっすぐにしか進めないようで扉の前を通過していき、どこかへ消えてしまった。

静かになった廊下に安堵し、息をつく面々。パニックと緊張で息は荒く、廊下を走っただけなのに、まるでフルマラソンをした後のように疲れきっていた。


「…で、ここは、どこなんだ?」


あがる息を整えつつ、宇井は持っている懐中電灯周囲を照らした。正面には洗面台、タイル張りの壁、個室。

あれ、ここってもしかして?








あきゅろす。
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