眠れぬ夜 夏の始まり 10 だが部屋に入ってくる様子はなく、外から声が掛かった。 「玲様、旦那様がお帰りになられました。」 絹子さんではなく、若い女の声だった。 俺は鷺ノ宮を見たが、鷺ノ宮はドアに向かって返事をした。 「直ぐに行きます。」 「かしこまりました。」 そう言うと、若い女は部屋から離れて行ったようだった。 「不動、ちょっと待ってて。お祖父様に挨拶して来るから。」 お祖父様・・・。 そりゃ、ちょっと・・・ヤバくねぇか? 俺は服を調え始めた鷺ノ宮の腕を掴み、表情を見た。 別段、いつもと変わらない。 「何、不動?」 「あー。いや。うーん。」 全く訳が分からないといった顔で、俺を見る。 「不動?」 本当に天然みたいだな。 ハァ。 普通、家族が家にいれば気を使うような気もするが。 「鷺ノ宮、家族が帰ってきたのに、Hなんて出来んのか?」 「!・・・///。」 俺が話すなり、途端に蒸気が出てくるんじゃないかと思うほど、鷺ノ宮は真っ赤になった。 「あ・・・そう、そうだよね。僕ったら。」 指を口に持っていき、俯きながら話す鷺ノ宮は、可愛くて俺のツボに入った。 思わず鷺ノ宮を引き寄せて、唇に深いキスをした。 「あっ、ん・・・はぁ、ん、はぁ。ふ、どう・・・///。」 唇を離すと、俺は鷺ノ宮の耳元で熱い息を吐きながら。 「初夜はお・あ・ず・け・な♪」 鷺ノ宮は狼狽えた。 瞳をめいいっぱい大きくして。 「な、なっ、なん・・・初夜って?」 「俺とお前が両思いになって初めてするsexだ。初夜に違いないだろ?」 「バッ、馬鹿!」 「アハハハ♪お前の顔最高だぜ!」 鷺ノ宮は怒った顔も綺麗なんだな。 ますます好きになるよ。 俺が帰ろうとすると、鷺ノ宮が玄関まで送ってくれた。 「じゃあな。」 「あっ、うん。・・・不動ごめんね。」 「フッ。気にすんな。楽しみは待てる方だから。」 そう言うと、鷺ノ宮はまた真っ赤になり俯いた。 「フフッ。じゃあ帰る。またな。」 「うん。また。」 鷺ノ宮の顔をもう一度見ようと顔を向けたら、その奥に鋭い眼光をした1人の年老いた爺さんが俺を見据えていた。 なんて威圧感だ。 あれが鷺ノ宮の祖父さんなのか? 全然、雰囲気が違うな。 俺はなぜだか、武者震いが走った。 これは何なのか? その時の俺には解る筈もなく、ただ黙って鷺ノ宮の家を後にした。 [*前へ][次へ#] [戻る] |