眠れぬ夜
夏の始まり 3
絹子さんが玄関の扉を開けて中に入ると、僕達2人も続いて中に入っていった。
「玲様、すぐに冷たい御飲物と御菓子をお持ち致しますね。」
絹子さんは笑顔でそう言うと、キッチンに消えて行った。
玄関に残された僕は、不動と2人きりになったことに、ちょっとしたパニックに陥っていた。
ど、どうしよう?
不動が僕の部屋に上がる・・・///。
部屋の中・・・は掃除してくれているから大丈夫、なはず。
あと・・・別に変な物とか置いてなかったかな?
「・・・ぃ、おい!鷺ノ宮!」
びくっ!
あれこれと自分の部屋のことを考えていたら、いつの間にか不動が苛ついたようで、眉間に皺を寄せて僕を睨んでいた。
そして一言、低い声で呟いた。
「帰る。」
「・・・え?あ、あの・・・?」
「ダチでも何でもない奴が部屋に上がるなんて嫌だろ?」
あ・・・。
なんか胸にズキンと矢が突き刺さったような感覚がした。
ダチ・・・ではないけど。
僕は・・・僕は、不動のことが好きなんだ。
ショックでうつ向いていたら、不動の靴の爪先が動くのが見えた。
「じゃあ・・・な?」
不動が扉を開ける前に、僕は咄嗟に不動の制服のシャツを掴んだ。
「帰らないで。」
言った瞬間、後悔した。
な、な、何でこんな甘えた声が出たんだろ?
自分の発した声に吃驚して、顔が真っ赤になった。
「鷺ノ宮・・・」
「あら!」
不動が何かを言いかけた時、キッチンの方から絹子さんが、御菓子の乗ったトレイを持ってやって来た。
「まぁまぁまぁ、まだこんなところにいらっしゃったんですか?早く部屋に行きましょう。落ち着いて話しも出来ないでしょう?」
絹子さんは僕達を急かして、僕の部屋がある2階に上がって行った。
部屋に入ると、絹子さんはトレイにある御菓子と飲み物をテーブルに置いて、空調の様子を窺っていた。
「玲様、室内の温度はこれぐらいでよろしいですか?」
「あ、はい。」
「では、失礼しますよ。お友達の方、ごゆっくりして行って下さいね!」
絹子さんは不動に軽く会釈すると部屋から出ていった。
不動と2人きりになった僕は緊張していたけれど、勇気を振り絞って不動に声をかけた。
「不動、あ、あの、良かったらこっちに座っ・・・て?」
僕の言葉が言い終わらない内に、僕は不動の胸の中に治まった。
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!