眠れぬ夜
夏の始まり 2
神谷と別れてから、学校での雑用を済ませて帰ろうと靴を履き替えていたら、目の前に不動が現れた。
会いたくて。
会いたくて。
ずっと会いたかった人物。
「もう、帰れるのか?」
落ち着いた男らしい声で、僕に話し掛ける。
「鷺ノ宮?」
「え?あ、あぁ。」
胸がざわつき舞い上がってしまい、不動の顔を直視出来なくて、自然と俯いていた。
「鷺ノ宮、行くぞ。」
不動は僕の前を、長い足でゆっくりと進んで行き、僕も後を着いていった。
なんか・・・昭和の、妻は3歩下がって歩くみたいな感じで。
ハッ!
妻だって?
なんて馬鹿なことを僕は考えてるんだ!
顔だけじゃなくて、身体も熱くなってきた。
僕が変わらず俯いて歩いていたら、不動が急に僕の腕を掴んだ。
「鷺ノ宮・・・。」
「え?」
「気を付けて歩け。危ねぇぞ。」
不動が顎で電柱を示した。
「あっ。」
僕は気恥ずかしくなって、また下を向いた。
そうしていたら不動が手を僕の前に差し出してきた。
「鷺ノ宮、手繋いでやろうか?」
その声の調子は、とても楽しそうな響きが含まれていたので、思わず顔を上げてみたら、不動の目とバチッと合ってしまい、視線を反らせなくなってしまった。
身体中が・・・熱を持ち始めた。
きっと顔が赤くなってる。
どうしよう?
不動に見られていると思うと、なんでこんなに熱くなるんだろう。
「鷺ノ宮、そんな目で見るな。理性が効かなくなる。」
「!・・・///」
あぁ。
もう駄目かもしれない。
不動が好きで、好きで堪らない。
「不動・・・。」
「何だ?」
「僕、僕は!」
不動に思いの丈を話そうと口を開きかけたその瞬間、何処からか僕の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「玲様?お帰りなさいませ。」
・・・絹子さん?
周りを良く見てみると、家の近くまで来ていた。
「玲様、お友達でいらっしゃいますか?こんな暑いのに外にいるのもなんですから、家に入ってお話されてはどうですか?」
い、家に〜?
それは・・・///。
それは嬉しいんだけど!
僕は不動をチラッと見てみる。
不動は固まってる。
「さあさあ、早く行きましょう。本当に今日は暑いですわねぇ。年寄りには堪えますよ。さあさあ早く。」
僕と不動は、なんとも柔らかいんだけど力強い絹子さんに抵抗できなくて、促されるままおとなしく着いていった。
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