眠れぬ夜
夏の始まり 1
1学期最後の課題、期末試験が終了し、明日からは試験休みに入る。
クラスの生徒は一様に夏休みをどう過ごすか話し合っていて、楽しそうだ。
「鷺ノ宮!浮かない顔だなぁ?テストあんまり出来なかったのか?」
神谷が心配そうに、両手を僕の机について顔を覗き込みながら聞いてくる。
「え?あ、あぁ。」
本当はテストの事なんて考えてなかったけれど、神谷を心配させたくなかったから、そう濁した。
僕が考えているのは、ずっと不動の事だけ。
『嫌いじゃない。』
試験前に不動に言った言葉が恥ずかしくて、この1週間ろくに眠れなかったのだ。
それに・・・。
それに、あれから不動が僕の前に現れない。
あんなこと言ったから敬遠されてるんだろうか?
玩具にしていた僕から、嫌いじゃないだなんて言われて、遊べなくなってしまったんだろうか?
あの時、不動は僕から離れるって言っていた。
だから、だから引き留めたくて、つい・・・言葉にしてしまった。
不動に・・・会いたい。
会いたい。
会って顔を見たい。
抱き締めて欲しい。
そして・・・あの唇とキスしたい。
もう叶わないの?
不動に触れることは、もう・・・一生ないのかな?
パンッ!
神谷が両手を打ち合わせた。
僕はその音に吃驚して一瞬固まった。
「鷺ノ宮、大丈夫か?急に黙り込んだりして。」
「あ、あぁ、大丈夫だよ。すまない神谷。」
駄目だな僕は。
神谷に心配かけさせて。
「ところでさぁ、鷺ノ宮は夏休み何してる?」
「夏休み?夏休みは塾の合宿が2週間あって、それから短期でイギリスに英会話の勉強に行くけど。」
神谷が口を大きく開けて、僕をマジマジと見る。
「お前・・・。」
なんだか神谷が項垂れている。
どうしたのだろう?
「神谷?」
「あ〜。何でもない。ただお前を不憫に思っただけ。」
「不憫に?どうして?」
神谷はボリボリと頭を掻いて、呆れた表情をした。
「折角の夏休みを、何で勉強付けの毎日で過ごさなくちゃならんのか解らん。」
「そう・・・そうだろうね。」
普通ならばそうなのだろう。
でも僕の実家では。
「あ〜、俺の言うことなんて気にするなよ。俺には俺の、お前にはお前のやり方があるんだから、な!」
「・・・うん。」
僕と神谷はHRが終わった後で別れ、それぞれの夏休みに突入した。
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