向日葵の君
待つ人6
あれで通じねェのかよ。
煙を吐き出して一呼吸置くと、今度は笑いが込み上げてきた。
いや、待てよ?
俺も流れだけで口走ってねェか?
これからも危険な仕事がないわけではない。
それでも大丈夫かと改めて確認したかっただけで、端からプロポーズしようなんて考えていたわけではなかった。
けれど話しているうち、茜のいない未来が考えられなくなってしまったのだ。
これからも、「ただいま」と帰る場所には茜がいてほしい。
こりゃプロポーズだと自分でも思った。
そして、そう受け取ってくれて構わないとも。
それがこうも通じないとは。
「何笑ってるんですか?」
「いや? 別に」
込み上げる笑いを指摘された土方は、わざとらしい咳ばらいでごまかそうとする。
「嘘。何かあるんでしょう?」
「ねェよ」
ったく、肝心なとこでは鈍いくせに。
土方は胸の内でそうぼやきながら煙草を消した。
「今度の休みはどうしようかって考えてたんだよ」
咄嗟に口にした言い訳に茜の表情が華やいだ。
「どっか行きたいとことかあるか?」
「とくにはないですけど……あ! 桜が咲いたら、この間の公園に連れて行ってほしいです」
「ああ、あそこか」
茜が微笑み頷く。
「桜はもう少し先だな」
「そうですね、まだ二月ですもんね」
「あっという間だろ。きっと」
少し先の約束は、未来の茜をこの手に引き寄せたようで悪くない。
「楽しみだな」
「そうですね……」
やわらかく微笑む土方を見ていると、改めて無事で良かったと茜は胸に込み上げてくる。
離れたくない、ずっと側にいたい。
いつもはぐっとこらえているが、せめて今日くらいはわがまま言っても大丈夫だろうか。
少し迷ってから茜は息を吸った。
「あの、私……明日、休みいただいてるんです」
「ちょうど良かったな。心配して疲れてるだろ」
「はい、そうなんですけど。あの、今夜はこのまま、一緒にいてもいいですか?」
え、何? …え!?
茜の言葉に驚く土方は、テーブルに肘をついたまま固まった。
茜を見ると真っ赤になって俯いている。
ああ、そっか。
普通に考えりゃ不安だったんだよな。
しばらくずっと会うこともできなかったのだ。
こんなことを先に言わせた自分の方が格好悪い。
「茜」
「はい」
茜は恥ずかしそうに顔を上げた。
「俺も最初から帰すつもりなんてねェよ」
少し素っ気なく聞こえる声は、ただの照れ隠しだ。
普通にしていると、それだけでも凍えてくる季節。
「寒ィからこっち来い」
風呂上がりの土方はくしゃみが出たついでに、ちょうどいいタイミングだと茜を隣に呼んだ。
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