3)大正恋々
大正ロマンとは、良く言ったものだ。

この時代の女性の流行りは、着物に袴姿。
髪は耳を隠してまとめ上げ、靴と洋傘を持参するスタイルが流行っていた。

ファッションに疎い幸は、全く興味などある筈がなく、女学校に通うにも地味な格好を選ぶことが多かった。
それを黙って見過ごすことが出来なかったのが、使用人の佐助だ。
佐助と言う名だか、れっきとした女性である。

幸に自覚はないが、その辺のお嬢様達よりずっと可愛らしい。
きっと、成人を迎える頃には高嶺の花と呼ばれるほどの美人になるだろう。
幸と同じく女学校に通う他の娘など、流行りのモダンスタイルを取りあえず着飾っていれば良い。
モダンガール?
笑わせる。皆々逆を言えば派手な着飾りに顔が負けているではないか。
佐助は鼻で笑う。

自分の仕えている家の娘は違う。その流行りのモダンでも、負けないくらいに似合うスタイルを作り上げる!

そう意気込んでいる佐助は、毎日幸村の着付けを考えては練って、また考えては練っている。

「――佐助、もう良いだろう」
「うーん…振袖は臙脂、袴は紺…?いや、黒が良いかな?」
「早くしてくだされ!」
「決まった!!黒だ!」

佐助の選んだ着物は、大きな牡丹が散りばめられている臙脂の振袖と、枝垂れ桜がワンポイントの黒い袴だった。

急いで着付け、長い髪の毛を後ろで結ぶ。纏まらなかったサイドの髪の毛がはらりと頬に舞う。
そして、他の娘に後れを取らない策として、ブーツを履く。
今日は雨模様なので洋傘を持ち、玄関をでる。

「お嬢、今日も完璧だよ!」
「いつもすまぬな」

いえいえ、これはもう趣味みたいなものだから気にしないでー。
戸口で手を振り、佐助は幸を見送る。

「今日のはてこずったなー…」

朝の仕事が終わり、ほんの少しの休憩を取るためにお茶を淹れる。
幸が身に付けた着物は伊達家次期当主から送られた品だ。

その事実を教えてしまえば、幸は恥ずかしさで悶絶してしまうだろう。
だから、教えてない。

昨夜、佐助が慕う伊達家の使用人から連絡があり、全身を政宗から送られた品でコーディネートした。

その意図を知らずに女学校へと向かった幸の慌てふためき顔を真っ赤にする姿を想像して、佐助はクスクスと笑う。

「誰からみても相思相愛なのに、お嬢は未だに自覚してないからねー」

――青春だなあ。

  まだあげ初めし前髪の
   林檎のもとに見えしとき

ふと、ある文人の詩を思い出す。
まさにお嬢そのものの詩だと、佐助は微笑んだ。

「こっちの祝言はいつ上げてくれるのかな、小十郎さん?」
「気付いていたか」
「小十郎さんの香りなら、三千里先でも嗅ぎ分けるよ」

裏口から入ってきたのだろう、政宗の従者であり、佐助の婚約者は相変わらず気難しい表情をしている。

「お前は忍か…」
「祖先がそうらしいけど、よく分からないね」

自然な動きで寄り添い座る二人は、恋人というより夫婦に見える。
佐助は既に成人していて、婚約者も目の前にいる。
でも、それぞれ己の主人が祝言を上げるまでオアズケなのだ。

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