うさぎの初恋
◆08.初恋の君。bP
いち早く気にしたのは、『うさぎ』という名。それは、俺の初恋の件を知っている長耳も同じであって。
「朱里、君の初恋の君は、本当に女の子だったのかい?」
長耳に言われるまでもなく、その可能性に今気づいた。
幼き日のセピア色の甘い想い出………。
普通ならばそっと胸にしまっておくが、俺には生憎、権力という力が使える上流階級組だった。
当時小学2年生の俺は、その力をフルに使った。
【1.5歳から7歳くらいの女の子。2.『うさ』という名前。3.『殿』というウサギを飼っている。4.かなりウサギ好き】
この情報だけで、すぐに見つけられると思った………しかし、結果は『該当者なし』で…。
当時、がっくり肩を落としている俺を長耳が慰めてくれた。
それから、長耳とは友情を深め、友達第一号を手にした訳だが、初恋の君はきっとどこかに引っ越しでもしたのかと思っていた。
………今更ながら、初恋の君の一人称は、『うさ』。それから、想像するに男女のくくりはない訳で…。
確かめたい…確かめなければ!!
ジッと見過ぎていたのか、猫屋はウサギ玩具を手に握りしめて睨んでいる。どうやら、俺に取られると思っているらしい…。
確かに俺のものではあるが、今最大の問題はそれではなく。
「うさ………猫屋、一つ二つ聞きたいことが―――」
「『猫屋』は止めて下さい!!ぼく、猫は大っ嫌いです!!」
「そ、そうか………それでは、う、う、うさぎ」
「はいっ!」
うさぎの満面な笑みが、セピア色に残る初恋の君と重なり顔が熱くなる。
…確認するまでもなく、絶対うさぎは『うさ』だ!!面影がばっちりある!!
顔に手をあてて、長耳の方を向けば、ため息を付かれている状態…。
ほっとけ!っと、言いたいところだが、ちゃんとうさぎが『うさ』である確認もしたい!
「わるい、長耳。あとで何かしらの―――」
「わかっている。この場は私がフォローしてあげるよ」
心の中で感謝×100を述べて、顔に手をあてたまま俯く。完璧顔が赤い………ダメだ、まともにうさぎを見ることができない。
◇◆【長耳視点】◆◇
ヘタレ…というか、初恋の君に突然逢えた喜びから言葉をなくしている朱里に変わり、私がうさぎ君に質問することにする。
ちゃんと聞いていて下さいよ、朱里。
「うさぎ君、朱里はちょっと具合が悪そうだから代わりに私から質問するね」
「はい」
うさぎ君はもちろん、うさぎ君の隣にいる草間君もどこか会長の雰囲気に首を傾げている様子。
これ以上、朱里を見続けられているとボロが出そうなので、次々質問していくことにする。
「うさぎ君はもしかして、昔、ウサギを拾ったことあるかな?」
「???…はい、でもなんで副会長は、そのこと知っているんですか?」
驚く、うさぎ君にちょっとそのことで…と、曖昧に言葉を濁しておく。
「そのウサギはどんなの?」
「はい!!めっちゃ可愛い黒いウサギで!!耳がピンッとしてて、黒目がクルクルして、とっても頭がいいんです!…片腕がないので、たぶんそのせいで捨てられたと思うけど、今ではぼくの相棒のような存在です」
「もしかして、今も一緒だったりする?」
「はい!もうウサギとしては高齢だけど、今もぼくの良き相棒です!」
まさかとは思っていたけど、朱里の初恋の君とのキューピットであるウサギは存命しているようだ。
あの当時からだから9年経っている………ウサギの年齢の数えかたは知らないが、たぶん、高齢であることは間違いないだろう。
朱里を見れば、朱里も赤い顔はそのままで驚いた表情を浮かべていた。
◇◆◇◆◇
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