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ぬくもり
ファーストキスは、夜景の見える公園で。

初めての夜は、最上階のホテルのベッドで。

キスもHも、大好きな人と……


それは、当たり前の、女の子なら誰もが持つ夢で、もちろん私もそうで、いつか訪れることを期待していた。


でももう私には訪れない。
まさに、夢―――




「……ん」

なんだか、体が暖かい。

左側全部と、右肩が暖かい。もうひとつ言うと、脚も暖かい。
もう…ぜんぶあったかい……

目を開ける。

私はソファに座っていて、誰かに肩を抱かれていた。膝にはブレザー。

この優しい暖かさは、あいつじゃない――私はゆっくりと、左側の人を見た。


「…か、会長?」

そこにいたのは跡部会長だった。私の肩を抱いたまま、眠っている。

綺麗な寝顔が近くて、ドキドキする。

「…あ」

会長は、カッターシャツ姿だった。この膝に掛かっているのは、間違いなく会長のブレザー。

窓の外を見ると真っ暗。
夜はまだまだ寒いこの季節に、この姿は寒いと思った。

「か、会長!風邪引いちゃいますよ!」

私は慌てて会長の肩にブレザーを被せようとする。
すると右肩に回っていた手の力が急に強くなって、抱き寄せられた。

「風邪なんか引かねーよ」

「…え?」

「苗字がこんなにあったけぇんだから」





涙が、

涙が、落ちる。


鼻の奥がツンとする。


私は堪らず、会長に抱き着いた。

会長の脇腹に両腕を回して、背中にぎゅっとしがみつく。

会長が左手で、私の頭を自分の肩に押し付けた。


会長のシャツが濡れてしまう……

それでも、肩を貸してくれるんですか?



暖かいのは、貴方の方です―――


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あきゅろす。
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