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空いている手で
私は、体温なんかなくなった。冷たい人形みたいになった。

そう、思っていた。

だから、会長の言葉が意外過ぎて驚いたんだ。

だけどそれと同時に、心の底から嬉しくて、涙が出た。




あれからどれくらい泣いただろう。

ひたすら泣いて、泣きすぎて酸欠になって、指先がしびれた。


「…かいちょ、」

今はもう大分落ち着いた。
落ち着くと今の状況が恥ずかしくなってくる。

会長はいつまでも私を抱きしめたまま、頭を撫でてくれたり、髪を梳いてくれたりした。

会長は何も言わなかった。
無言が優しい。

でも、いつまでも甘えていられないから、そっと会長の体を押した。

「…ありがとう、ございます…もう、大丈夫ですから」

少しの沈黙。
会長の目がまともに見れない。でも次の瞬間、会長が溜め息をついたのが聞こえて、体がびくっとなった。

(っ…会長、怒ってるの、かな…)

私は会長の溜め息の理由を必死に探す。

やっぱり泣きすぎたのがうざかったのだろうか、それとも、

「そんな苦しそうな顔で言われても、説得力ねぇな」

「え?」

会長がいきなり私の腕を引っ張って、立ち上がった。

そのまま会長の荷物と、私の荷物もまとめて、生徒会室を出ようとする。

「か、会長!」

「あーん?」

「あ、あの、怒ってたんじゃっ」

「怒ってるわけねーだろバーカ」

「えぇ!?…よ、良かった…じゃない!か、会長!」

「今度はなんだ」

「あの、私、ちゃんと歩けるんで、そんな引っ張らなくてもっ」

「ダメだ」

「どうしてっ」

「離すと苗字、どっか行っちまいそうだから」





きょとん、としてしまった。そして一気に顔に熱が集まる。不意打ちKOされたみたいで、何も抵抗できなくなった。


会長は大人しくなった私を連れ、階段を降り、昇降口へ向かう。

(あ…帰るんだ。そりゃ、そうだよね、こんなに暗いをだもん)

「…あ、あの、会長!」

私は少し回復してきた気力を使って、会長の歩みを止めた。

これ以上会長に迷惑は掛けられない。

「…あの…もぅ、大丈夫です、一人で帰れますんで、」

きっと会長は優しいから、私を家まで送り届けてくれるんだろう。

でも、会長の大切な時間をこれ以上私のことで使わせるわけには…

「はっ、何言ってやがる。お前は俺ん家に帰るんだよ」

「………えぇ!?」

私のそんな素っ頓狂な声を置き去りに、会長はまた私の腕を引いて歩き出した。

「…ったく…こんな状態の奴、危なっかしくて一人にしとけっか…」

会長が何か呟いたみたいだったけど、私の耳には届いていなかった。

会長の手が腕から段々下りてきて、私の手に触れた。

心臓が飛び跳ねた。

でも会長は何食わぬ顔で、私の手をぎゅっと握る。

会長の斜め後ろで、私は気付かれないように、またちょっと泣いた。

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あきゅろす。
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