. 優しい空間 「おじゃま、します…」 (うわぁ…すごい部屋……) 会長の一人暮らしの部屋は、私の実家より広いんじゃないかと思うくらい広くて、綺麗だった。 家がお金持ちなことは知っていたが、まさかここまでとは… 噂のアトなんとか宮殿は、もっと広いのだらうか。 「自分の家のようにくつろげ」 (む、無理です…!!!) 私は未だ玄関の辺りでオロオロしていた。 だが会長は、私なんかいないみたいに、部屋の中を動き回る。 普通なら寂しいって思うかもだけど、今の私にはそれが心地好かった。 少しこの空間に慣れてきて、私は、目に入った、大きくて柔らかそうなソファに近付いた。 長いソファの端っこに、丸くなって座る。 思った通りすごくふかふかで、気持ち良かった―― 「…ん」 かすかな音か、気配か、分からないけど、私はふっと目を覚ました。 「お前。よく寝るな」 正面には、一人用のソファに座っている跡部会長がいた。 私はさっきの場所にいて、きっとあのまま寝てしまったんだ。 体に毛布が掛かっている。 また会長が掛けてくれたのかな… そしてまた会長を見る。 あまりにも自然だったから見過ごしていたが、会長はバスローブ姿で、片手にはシャンパングラスを持っていた。 「か、会長!お酒っ?」 「んなわけねーだろ。ノンアルコールだ」 あぁ、そっか、と納得する。 バスローブのことに触れるのは恥ずかしかったので、無視する。 …だって…なんかもう似合いすぎてて…なんか、エロい…… 「起きたならお前も風呂入れよ」 「え!?」 (お…お風呂!?えっと…お風呂!?) 「はっ、なんだ苗字。いかがわしいことでも考えたか?」 言われてはっとした。何を自分は慌てているんだ。泊まるわけだし、普通のことじゃないか。 「そ、そんなわけないですぅ!!お風呂いただきますっ!」 後ろで笑い声が聞こえたが、気にしない。 だが、ある事情により、私は会長のもとへ戻らなければならなかった。 「あ、あの…」 「どうした?」 「お風呂は…どこですか…」 また盛大に笑われた。 そして、案内してやると言う会長に着いて行き、お風呂の使い方や脱衣所の説明を聞いた。 [*前へ][次へ#] [戻る] |