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MONSTER HUNTER*anecdote
砂漠の一角竜
肌を焦がすような太陽が照り付ける、渇いた大地・砂漠。この場所には、異なる二つの顔があった。

昼は汗の滲む灼熱の地。暖かい風が吹く度に、さらさらと砂が巻き上がる。
そして夜は一転して気温がぐっと下がり、一気に寒冷の地と化すのであった。

どちらもハンターにとっては過酷な環境。火山に次いで、厳しい狩場の一つである。

モノブロスの討伐にやって来たアリス達は、ごつごつした岩肌の大地を地図を頼りに進んでいた。
その先頭を行くのは、意気揚々と愛用のハンマーを振り回すヨモギ。本来の勇敢な心に加えて狩猟にも慣れてきた彼は、今では立派なハンターになりつつあった。

そんな彼の後ろを、アリスとラビが並んで歩く。

「ジジィが討伐するのに一ヶ月もかかったモンスターって、どんな奴なんだろう?」

「俺も文献でしか見た事がないけど、手強い相手である事は間違いないな」

「ちょっと不安になってきちゃった。でも、頑張らなきゃね」

アリスは深呼吸を一つして、高ぶる気持ちを落ち着ける。
今回はラビも初めて相対する敵。いつものように、彼からアドバイスを貰えるわけではない。気合いを入れ直さねばと、頬を叩いた。

緊張から固い表情をしているアリスを見て、ラビは彼女の兜をぽんと叩く。

「大丈夫。いつも通りに協力し合えば、上手くいくよ」

「うん……」

「それに村長さんが討伐に一ヶ月かかったのも、当時は武具の技術が今ほど発達していなかったからな。俺達の武器なら、そこまで時間はかからないんじゃないかな」

だから気楽に行こう、とラビは笑った。

「……そうだね。私達三人にかかれば、どんな相手だって楽勝だよね!」

「その通りニャ!」

いつもの明るさを取り戻し、アリスはヨモギと一緒に跳びはねる。そんな二人をラビは微笑ましく思っていた。

と、その時。ハンター達の足元で、微かに大地が揺れ動いた。地震とは異なる奇妙な振動。三人は直ぐにそれを察知し、表情を強張らせた。

何かが地中でうごめいている。
ラビの脳裏にはいち早く、文献で見た竜の姿が浮かんでいた。

「アリス、ヨモギ君。どうやらお出ましの様だ」

彼の言葉に二人は辺りを見回す。それと同時に、ぐらぐらと足元が大きく揺らいだ。

「走れ!!」

ラビが上げた声に、咄嗟に反応出来た事が幸いだった。その場から二人が立ち退いた直後に、地面の下から天を突き上げるようにして、巨大な一角竜が飛び出したのである。

砂煙を撒き散らしながら現れたその竜は、後ろ脚で二度地を蹴ると、グルルと低い声で唸った。鋭く尖った深紅の角を額にかざし、自らの存在を誇示するかの様に翼を大きく広げる。

「これが、モノブロス!?」

堂々たる佇まいに独特の気高さを感じ、アリスは息を飲んだ。
ラビが走れと言ってくれなければ、あの大きな角に串刺しにされている所だっただろう。想像しただけでゾッとする。

「ラビ、ありがと!」

アリスが叫ぶと、ラビは視線をモノブロスに向けたまま頷いた。そしてその背に担いだヘビィボウガンを構えると、竜の角に狙いを定める。

アリスも注意深く相手の動きを観察しながら、間合いを詰めては斬撃を繰り出した。グラビモス戦での失態を繰り返すわけにはいかない。踏み込むよりも、反撃を喰らわぬうちに素早く離れるよう心がけた。

巨体の割にモノブロスの動きは素早く、息つく暇も無い。鋭い角を突き立てた突進や、棘の付いた尻尾のぶん回しを避け、絶えず走り続けなくてはならないのは、いつも以上にスタミナと集中力を必要とされた。

「ニャ〜〜〜〜っ!」

ヨモギの樽爆弾攻撃が飛竜の勘に触ったのか、はたまた一番小さな奴から始末しようと考えたのか。標的にされたヨモギが、モノブロスから執拗に追いかけ回されはじめた。

「ヨモギ!!」

彼を助けなければ。
アリスは必死に逃げ惑うヨモギの側に走り寄ると、彼の首根っこを掴んでひょいと抱き上げた。

モノブロスに追われながらも全力で走り続けるアリスの目前に、切り立った岩壁が迫る。見ればその壁面に沿うようにして、ちょうど足場になりそうな高台があるではないか。アリスはそれに向かってダンッと地を蹴り、固い岩場に飛び乗った。

後に続いていたモノブロスは、突進の勢いのまま、固い岩壁に激突する。ぐらりと激しく揺れる高台。すると、一角竜に異変が起きた。

その御自慢の深紅の角が、根本までズブリと岩壁に突き刺さってしまっている。更に驚く事に、角が抜けずに立ち往生しているのだ。

それを高台の上で見ていたアリスとヨモギは、顔を見合わせてにやりと笑った。

――チャンスだ!

すぐさまヨモギは持って来ていたありったけの樽爆弾を、惜し気も無く高台の上から雨の様に降らせてやった。
モノブロスの右手側に陣取っていたラビも、ただの的と化した竜に次々と弾を撃ち込み続ける。

「はあぁぁぁっ!!」

モノブロスの尾を目掛けて、天高く大剣を振りかざしたアリスは高台を跳び立った。その剣の重量に勢いを乗せて、一思いに振り下ろす。

グオオオオッ!!

モノブロスの苦痛に満ちた鳴き声が、砂の海に響き渡った。刺々しい尾の先端が宙を舞い、砂の大地にドサリと落ちる。その傍らに降り立ったアリスは、一度間合いをとる為に、大剣を背に担ぎ直していた。

一角竜が大きく身体を揺さ振ると、漸く角が壁から抜けた。だが、そこにラビが放ったボウガンの弾が命中し、深紅の角は破片を散らしながら渇いた大地に落ちていったのだった。

一瞬にして、己の武器を二つも失ったモノブロスは、立ちはだかるハンター達をギロリと睨みつけた。
そして砂の大地を掻き分けて、再び地中深くに潜って行く。

また足元から突き上げてくるかもしれない。そう危惧したアリス達は身構えたが、地中の奥深くを潜航する振動は、三人の間を通り抜けて行った。
あっという間に小さくなっていく地鳴りと共に、モノブロスの気配は消え、辺りは静寂に包まれた。

「……逃げた様だな」

ラビは構えていたヘビィボウガンを下げ、一息つく。続いてアリスとヨモギも肩の力を抜くと、緊張の糸が解けたのか、その場にへたりこんでしまった。

「疲れた……。あいつ、体力ありすぎるよ……」

「僕、もう駄目かと思ったニャ。ありがとニャ、アリス」

目を潤ませてお辞儀する彼に、照れ臭そうにアリスは笑う。

「でも、へばってる場合じゃないよね。準備を整えて、すぐに追いかけなきゃ」

「……いや、今日のところはベースキャンプに戻ろう」

意外なラビの言葉に驚き、急いで回復薬を飲もうとしていたアリスは手を止めた。ヨモギもきょとんと目を丸くしている。

「どうしてニャ?」

「夜になればこの辺りは急激に冷え込むって、来る途中に話しただろ?」

言われてから空を見上げると、夕日はすでに沈みかけていた。どうやら時の流れに気付かないほど、集中していたらしい。

「視界も悪くなるし、俺達は色々と消耗してしまっている。今日はゆっくり休んで、狩りは明日の朝に再開しよう」

彼の案に異議を唱える者などなかった。このままモノブロスを追跡しても、上手く戦えそうに無いのは悲鳴を上げる身体が教えてくれている。

「じゃあ、戻ろっか」

視界に映る、砂の大地に置き去りにされたモノブロスの尾と角。そこから素材として使えそうな部分を剥ぎ取ると、疲れた身体を引きずりながらキャンプへの帰路についた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


すっかり辺りが夕闇に包まれた頃。肌を刺すような冷気に身を震わせながら、三人はベースキャンプに戻ってきた。

支給品の中に入っていた携帯食料で食事を済ませ、テントの中にある質素なベッドに疲れた体をなげうつ。重くのしかかる疲労感は、直ぐに眠気を催してくれたのだった。



――うう、寒い……。

数時間後。アリスは身震いしながら目を覚ました。
鎧を着たままでは眠れないからと、インナーだけの姿になったのがいけなかった。テントの中に用意されていた毛布だけでは、砂漠の夜の寒さを凌げない。

隣ですやすや眠るヨモギは、温かな毛皮に包まれて快適そうだ。寝息と共に上下する小さな体を見つめながら、アリスは羨ましいなと思っていた。

「……あれ、ラビは?」

ふと我に返り、アリスはラビの姿を探した。ヨモギを挟んで反対側に眠っていたはずの、彼の姿がない。

アリスはベッドから降りると、毛布を肩にかけてくるまりながら、そっとテントの外を覗いてみた。

星空の下、パチパチと小さな音を立てて燃え上がる焚火。その暖かな光の側に、彼の姿はあった。
こちらに背を向けて座り、何か作業をしている。足元には、ボウガンの弾の素材であるカラの実が散らばっていた。どうやら、明日に備えて弾を調合しているらしい。

「ラビ?」

アリスが声をかけると、すぐに彼は振り返った。

「どうした。眠れないのか?」

「うん、ちょっと寒くて。……ラビは寝ないの?」

「これが終わったら、寝るよ」

ラビは苦笑いしながら、作成中の弾を指差した。

――もしかして、寝たふりをしていた?私とヨモギが眠った後、火の番をする為に……。

彼の事だから、きっとそうだろう。
アリスは、何も考えずにさっさと眠ってしまった自分を悔やんだ。疲れているのは、ラビも同じだというのに。

「……ゴメン。私、ラビに頼りっきりだ」

溜息をつきながら、アリスはラビの隣に腰を下ろした。横から吹きすさぶ風が冷たくて、毛布と一緒にぎゅっと膝を抱える。

「頼りにされない方が嫌だな。俺のほうが年上だし、ハンターとしても先輩なんだから」

「いや、そうだけど……」

アリスは、火の番くらいは交代でしようと言って欲しかった。
仲間とは言っても、立場がまだ対等ではない。ラビはいつも気を使って、面倒事を一人で抱え込んでしまうのだ。
アリスにはそれが、歯痒くて堪らなかった。

「……気にしなくていい。俺がやりたくてやっている事だから」

心の中を見透かしたようなラビの台詞。読心術でも使えるのだろうか、それともそんなに腑に落ちない顔をしていただろうか。アリスは驚いて彼の顔を見つめた。

「昔からそうなんだよ。……弟がいたせいかな。お節介な所あるんだ」

「弟が……“いた”?」

ラビの過去。
アリスは、父親の後を継いでハンターになったとしか聞いていない。
果たして、そこに踏み込んでいいのだろうか。嫌な事を思い出させてしまうんじゃないだろうか。アリスがそう迷っていると、ラビはこちらを向いて「聞いてくれるか?」と微笑んだ。

それはとても穏やかで、それでいて儚くて。深い憂いに満ちた瞳は、今にも消え入りそうだった。

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