短編 one more...プロローグ 頬をなでる風に暖かさを感じ、明るい日差しを全身に浴びながら天を仰ぐ。 つい最近までどこかぼんやり灰色を帯びていたはずの空は、清々しく鮮やかな青をしていた。 ――春だ。 いつの間にか、冷たく厳しい冬は終りを告げ、過ぎ去っていたのだ。 あたたかい春、ツメタイ冬。 疑う人なんてきっといない、明らかな事実。 僕だってそれを信じてた。 2年前、現実がその理を覆すまでは。 穏やかな春に、無情にも裏切られた僕。 深く深く傷ついた僕を優しく包み込んでくれたのは、冷酷なはずの冬だった。 優しい優しい、純白の季節。 あたたかな冬は僕を連れて行ってはくれなかった。 やってきたのは、ツメタイ、ハル。 [*前へ] [戻る] |