短編
月の魔法 プロローグ
彼の人への思いを抱え続けて、いったいどれ程の年月が過ぎたことだろう。
年齢も身分も何もかもが違う、叶うはずのない独りよがりなこの想い。
唯一の共通点である性別は、甘く切ない恋心をさらに苦しめる障壁以外でしかなく、決して想いが報われることはないという事実をより確固たるものとした。
何故、恋などしてしまったのだろう。
性別も身分も年齢も、あらゆる枠を壊してまで。
何故あの人でなければならなかったのだろう。
何度現実に打ちのめされようとも、涙と共に流れ去ってはくれないこの想い。
冬の静謐な空気に包まれ、静まり返った城下町。
今宵も月は、煌々と夜空に輝いている。
地上に広がる底無しのように深い闇を、柔らかく溶かす淡い月影。
ああどうか、張り裂けそうなこの心を、彼の人への恋に傷つき、血を流して震える哀れな心を、その優しい光で包み癒してはくれないだろうか。
長い長い冬の夜、若者の悲痛な叫びを内包し、王城の夜はゆっくりと更けていった。
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