Marco×Ace after story 夜も深まり、あれだけ騒がしかった甲板も、夜の闇に溶け込んでしまったのかのようにしぃんとしていた。 皆、各々の部屋へ戻ったのだろう。 オヤジも、少しばかり前に自室に戻ったのをマルコは確認していた。 相変わらずの酒豪で、自分の体調を知ってか知らずかうまそうにガバガバと酒を飲むオヤジには、オヤジ専任のナース達もお手上げのようで、頼れる一番隊隊長にすがってきた。 なんとか言いくるめ、オヤジを自室に返し、まばらに残っていた者達も部屋へと戻るように促す。 宴の後の片付けは、翌日の朝、その日の当番の隊と、料理人達がやることになっている。 マルコは人のいない甲板で、宴の余韻を楽しむかのように一人佇んでいた。 あたりは真っ暗闇で、唯一、月の光だけが甲板に降り注いでいる。 波の音が規則的に聞こえ、酔いを覚ますかのような冷たく心地よい風が頬をさらう。 その時、カタン、と音がして、誰かが甲板へと上がって来たのに気付く。 マルコは後ろを振り向かず、声をかける。 「エースかよい」 エースも、他の者たちと一緒に少し前に部屋へと戻っていったはずだ。 タンタン、と甲板に繋がる階段を上る音が静かな船にこだまする。 そのままエースは何も言わずにマルコの隣に立った。 いつもは快活なこの男が黙って夜の甲板に来るなど、普段なら考えられない、と思う。 いくらそこに綺麗な景色があろうが、目の前に食べ物があれば景色そっちのけで食べ物に手が出る。 おまけに食べる量が半端ではないから、料理人たちがわざわざエース専用のメニューを作った程なのだ。 そんな彼が、わざわざ夜の景色を見に来たわけでもないだろう、と思う。 だとすれば、答えは一つだ。 恐らく、マルコに何かを言いたくてこんな時間にこんなところまで来たのだろう。 マルコは黙って目の前に広がる暗い海を見つめている。 エースが話し出すのを待っていた。 どれくらい経ったのだろうか、エースがポツリと一言言葉を漏らす。 「今日…悪かった」 その言葉を聞いて驚く。 てっきり、宴だなんだと騒ぐ前にケリがついたと思っていた。 第一、あの件は全面的にマルコが悪いはずだ。 エースもそれで納得したと思っていた。 そこまで考えて違う、と思う。 何も彼は、謝るためにここに来たのでは無いのだろう。 何か別のことを伝えたくて来たのだ。 「……」 マルコは黙って続く言葉に耳を傾ける。 「その…せっかく、付いて来てくれたのに、俺のわがままで大変なことになっちまって…」 いつもの彼らしく無い、歯切れの悪い口調。 エースがこのように話すときは、決まって何か別の言いたいことを胸の内に隠しているときだ。 「エース」 マルコは静かに言葉を発する。 その言葉にビクッとして、それから、意を決したようにパッと顔を上げるとマルコに向き直る。 「あ、あのな、マルコ。…その、ぺ、ぺあるっくのことなんだけど…っ」 そこまで聞いて、マルコは、エースの言いたいことを察した。 恐らく、断ったはいいものの、やはり、何か二人で持つものが欲しくなったのだろう。 マルコは目の前でぎゅっと目を瞑り、顔を赤くしている年下の恋人を愛おしく思った。 ふ、と笑ってエースの頭に軽く手を乗せて撫でる。 その感触にエースが視線を上げると、マルコの視線とぶつかる。 それに安心したのか、エースがふにゃりと笑った。 「エース」 ふわり、とエースの背に己の手を回して抱きしめる。 それに呼応するかのように、エースもマルコの背に手を回す。 ちゅ、と軽くエースの額にキスをして、マルコが言う。 「…言ってくれよい、エース。お前の言葉で、ちゃんと聞きたい。」 「な…っ」 その意味に気づいて、再びエースの顔に熱が集まる。 「分かってるだろ…っ」 そう言って睨むエースは、しかし、マルコには扇情的な表情でしかない。 暫く黙っていれば、観念したのかエースがぽつりと呟く。 「マルコと………………が………い」 「聞こえねぇよい」 マルコがそう返せば、 「だから…っ、マルコと、お揃いのものが、欲しい…っ」 顔を真っ赤にして言うエースにマルコはちゅ、と口付ける。 それから、そのスカイブルーの瞳を優しく細めて、少し笑う。 「な、なんだよ…っ」 恥ずかしいからか、乱暴な口調で話すエースに先ほどより少し深いキスを落とす。 それから、少し癖のある黒髪を梳いて、マルコは答える。 「明日、もう一度町に行こうかい」 その言葉を聞いて、エースがパッと顔を上げて、嬉しそうに首を縦に振る。 その様子に、気まぐれで、天邪鬼で、それでいて人懐こい、黒猫を思い浮かべて笑みを漏らす。 それから、腕の中にすっぽりと収まるように抱かれている年下の恋人にマルコはもう一度深いキスを落とすのだった。 fin back/ [戻る] |