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Marco×Ace
8
買い出しの日の夜は、宴と決まっている。
皆が思い思いの気持ちを抱えながら、楽しそうに甲板で宴の準備をしている。
エースが眠り続けて、すでに数時間がたっていた。
そろそろ目を覚ましてもおかしくはない。
あのあと、医務室からエースを自分の部屋に移したマルコは、ベッド脇の自分用の机で仕事をしていた。
その時、
「ん…」
ベッドの方から小さく声が聞こえる。
続いて、少しかすれた声で、意識の戻ったエースがポツリと言葉を口にする。
「マルコ……?ここ、どこだ……おれ…確か、岬で……?」
その声を聞いて、思わずマルコは座っていた椅子を倒して立ち上がる。
「っ、エース!」
普段のマルコの冷静さとはかけ離れた行動に、意識の戻ったばかりのエースも軽く目を見張る。
「はは……どうしたんだよ、そんなに慌てて」
そんなエースの言葉を無視して、マルコはベッド脇に寄っていく。
そして、
「よかったよい…」
心の底から安堵したかのように大きく息をつく。
そして、軽くエースを抱きすくめて問う。
「体は?もう大丈夫かよい」
まだ完全に目が覚めてないのか、普段のエースからは想像できないようなふにゃりとした表情で彼は答える。
「大丈夫だよ。それより俺、なんでここにいるんだ…?確か、岬にいて、それから……」
そこまで言って思い出したのか、体を離して、おそるおそるマルコに聞く。
「俺っ、確か、岬で意識失ってっ…!…助けてくれたのか…?」
そう聞くエースはとても不安そうで、心苦しくなる。
こちらを見つめるその表情は、自分が倒れたことなど、頭の隅にも残っていないようだった。
それよりも、その心の内にあるものは、不安、寂しさ、それらを含む負の感情。
今なら分かる。
寂しいと心の声で訴えていたエースに気づけた今ならば。
そして、エースがあの岬にい続けた理由。
嫌われたくなかったのだ。
自分のわがままで、マルコに愛想を尽かされるのが怖かったのだろう。
そこまで考えてマルコは、改めてこの年下の恋人を愛おしく思う。
そんなことないのに、と思う。
おそらく、今まで生きてきて、ここまで執着した存在はない。
それだけに、その感情は日に日に増し、今ではマルコにとって命に代えてでも守りたいと思える存在になっていた。
「そうだよい。いきなり倒れやがって…。心配した」
「……ごめん…っ」
そう言ったエースを抱く腕を強めれば、それに答えるかのように、エースの腕が恐る恐る己の背中に回ってくるのを感じる。
しばらくの沈黙が続いた。
エースが今何を思っているのか、手に取るようにわかる。
己がしなければならないことも。
そうして、マルコはエースを安心させるように言葉を紡ぐ。
「エース、悪かったよい。」
出てきた言葉は、たったひとつの謝罪の言葉。
それでも、その言葉の重みは、日常、数多にあふれる謝罪の言葉とはかけ離れていた。
穏やかな、愛おしいものを見るその目でマルコはエースに謝罪する。
それは、まるで、愛の言葉。
今にも壊れてしまいそうなものを、それは優しく包み込む。
ふいに、目の前にいるエースの目から涙がこぼれ落ちた。
そして、
「マルコ。」
たった、一言。
エースは、彼の名を呼ぶ。
それだけで。
「……え」
ちゅ、と軽く音を立ててマルコはエースの唇に口付ける。
その時、マルコの部屋に一つだけある窓から淡いな月明かりの光が部屋を照らした。
それはまるで、岬の夕日のように、恋人たちを優しく包み込む。
二人の恋人は、ふわ、ふわりとお互いを確かめるように優しいキスを交わす。
やがて、それは深く深く、寂しさを埋めるように、悲しさを紛らわせるかのように変化していく。
それはまるで、彼らの愛とそれらの償い。
唇を離せば、目の前には火照ったエースの顔。
「マルコ…」
エースが名前を呼ぶ。
その中に、ふと一瞬、彼を非難するような感情がよぎったことをマルコは鋭敏に察知した。
そこで気づく。
エースは怒っていたのだ。
悲しさと寂しさの感情の狭間にもう一つの感情を忍ばせていたのだ。
まだ火照りのとれないエースの顔は、しかし、彼の心の内をありありと表していた。
なぜ、自分を頼ってくれないのだと。そんなに頼りないのかと。
エースは怒っている。
違う、と声を張り上げたい。
そうではないのだ。むしろ、エースを危険な目に合わせたくなかったのだ。
立場上、マルコは危険な場所に赴かなければならないことは目に見えていた。
そして、大海賊白ひげの右腕と呼ばれるほどの腕前を持つマルコだから、不死鳥マルコの異名を持つ彼だからと、簡単に負けるようなことはないと高を括り、実際、怪我をして帰ったことなどほとんどなかった。
つまるところ、これは彼の奢りだったのだろう。
自分は無事なのだから問題ないのだと。
そして、そんな奢りのためにエースに心配をかけていた。
たしかに、そんな自負はあったのだ。
実際、今まで、なにも問題はなかった。オヤジも仲間も声援を送るようなことはあっても、心配することはなかった。
しかしそれは、見放しているのではなく、マルコの実力を信じていたからだ。
それでも、エースだけは違った。
エースとてマルコの強さは知っているだろうが、それでも彼はマルコを心配していた。
他ならぬ、マルコのことが大切だったから。
そこまで考えて心が苦しくなるとともに暖かくもなる。
まさか、この年になってこんな気持ちを抱くことがあるとは思っても見なかった。
ぐるぐると沢山の想いが頭をよぎっては消えていく。
「マルコ?」
エースの声で我に返る。
いつのまにか涙は消えていて、いつもと変わらない彼の姿がある。ただ、違うのは、その中に、いくばかの安堵の表情が混じったことか。
どうした?と聞いてくる彼を愛おしく思う。
「ないでもないよい」
そう言って、腕の中にいるエースに口付ける。
くすぐったそうにエースは体をよじった。
その時、扉がドンドンと叩かれる。外で声がする。
「マルコ隊長!宴の準備できました!」
その報告に、エースの顔がパッと輝く。
それを見てからマルコは、返事を返す。
「すぐいくよい」
そして、マルコはエースを拘束していた腕を解く。
すでにエースの関心は宴に向いていた。
マルコは苦笑して、今にも飛び出ていきそうなエースに声をかける。
「病み上がりなんだから、食べ過ぎるんじゃねぇよい」
「おう!分かってる!」
さっきまで泣いていたのはどこの誰だったのか。
そんな面影もないほどに、エースは嬉々として扉に向かっていく。
そんなエースの後ろ姿に向かって、マルコは言い募った。
「エース。明日、さっきの土産物屋に行こう。ペアルック買うんだろい。」
それを聞いて、エースは、あぁ、と思い出したように唸ってから言った。
「いや、…悪ぃ、もういいや」
その言葉にマルコは意表を突かれる。
なんと言っても、今回こんな事態になったのは、そのペアルックがそもそもの原因なのだ。
なのに、どうして。
そんなマルコの胸中を察したかのようにエースは言った。
「だって、謝ってくれただろ。…もう無茶しないんだよな?」
無茶しないなんて、と思う。
そもそもそんなに無茶をしたことはない。
どちらかと言えば、エースの方が無茶をしているだろう。
それでも、マルコはその言葉に頷く。
それが今のマルコに出来る精一杯だ。
それをみて、エースはよし、と一人で納得してくるりと背を向ける。
なら大丈夫だ、と言う。
甲板では、宴が始まったのか、仲間達の騒がしい声が聞こえてくる。
「マルコ!早く行こう」
目をキラキラさせてエースがこちらを振り向く。
分かったよい、と返事をしてマルコはエースの後についていく。
ぎゅっと手を繋がれる。
少し驚いてエースを見れば、満面の笑みを浮かべている。
それを見て安心する。
そして、心の中で決心する。
もう絶対、エースを悲しませないと。


甲板では既に大勢の仲間が騒いでいる。
1500人以上いるのだから、相当なものだ。
すでに酔いが回っているものもいる。
この寒い中よくやるよい、と思う。
そして、それに参加している自分も変わらないと思う。
軽く笑って、マルコはエースとともに宴へと参加する。
夜空を振り仰げば、そこには、満点の星空が広がっていた。

fin


知人から彼氏とお揃いのものを買ったと自慢されまして
別段羨ましくはないのですが(←重要!)リア充め、と言いたくなったので、ならばお二人にアクセサリー持っていただこうかと
当初思い描いていたのよりエースが心配性な感じになってしまいましたが、これはこれでいいのかなって…
そもそもエースお兄ちゃんだし面倒見良いよね?

2019/6/5

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あきゅろす。
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