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Marco×Ace
4
それからしばらくあちこちの屋台を飛び回っていたエースが戻ってきたのは、だいぶ時間の経っていた頃だった。
マルコの姿を認めるや、走り出そうとしたエースはぴたり、と足を止める。何か、様子が変だった。
目を凝らしてみれば、一人でいたはずのマルコの周りに、キラキラに着飾った綺麗なお姉さんたちが群がっているのがわかった。
あぁ、またか、とエースは思う。
マルコはぱっと見、愛想が良い方ではないと思うが、元来の面倒見の良さに加え、たまに見せる穏やかな笑顔は他を魅了させる。
本人がそのことに気づいているかどうかは甚だ怪しいが、実際にそれで老若男女問わず人気なのをエースは知っていた。
おそらくエースが飯だ何だと飛び回っている間に困っていた女性か何かを助けたのだろう。
あくまで親切心ではあるが、女心を落とすのには十分だ。
まして、今はいつもの服装ではなく、浴衣姿だ。
スタイルの良さも相まって、かっこよさは抜群だった。
よくよく見れば、女性たちの間に小さな子供が見て取れる。困ったような表情のマルコは、しかし、エースがいることに気づいたのか、女性たちに潰されそうになっているその子供を抱きかかえると、マルコは群がる女性を押しやってエースの方へ歩いてきた。
後ろでは女性たちが騒いでいるが、素知らぬふりをしている。
目の前で立ち止まると、マルコは子供を抱いていない手でエースの眉間を優しく擦った。
どうやら、女性たちとのやりとりを見て、シワがよっていたらしい。ふ、と小さく笑うマルコに気まずくてエースはふい、とそっぽを向いた。
自分でも顔が赤いのがわかる。
その時、マルコが腕に抱いていた子供のお腹がぐぅ、と鳴った。
エースが抱えている食べ物を物欲しそうに見つめている姿に拗ねていたエースも思わず笑ってしまう。
それから、子供でも食べやすそうな食べ物を渡すと、嬉しそうに食べ始める。
その姿を見て、エースは気になっていたことを聞いた。
「なぁマルコ、さっきのお姉さんたちいいのか?スッゲェ見てるけど…それに、この子誰だ?」
「あぁ、あれはほっといていいよい。落とし物を拾っただけだってのに群がって来やがった。恋人と一緒だって言ってるのに聞きやしねェんだよい。」
苦々しげに言うマルコに笑いが溢れる。
別に友人でもいいだろうに、恋人と言ってくれたことが嬉しかった。
男同士であるが故の世間の目は少なからずある。
モビーの中では当たり前の光景も外では許されないことも多々あった。だからこそ、こういう言葉一つがエースにとって嬉しかった。
少し顔を赤らめたエースの顔に嬉しそうな表情が浮かぶ。
不意にマルコが、ふわ、と軽く顎を持つと、顔を赤らめながら、お行儀よく目を瞑るエースにふ、と笑って顔を近づけていく。
すると、今まで黙って食べ物を食べていた子供が、ねえ、と二人に声をかけた。
「二人は、こいびとどうしなの?」
甘い雰囲気に酔いしれていたエースがバッ、とマルコから離れる。公衆の面前だったことを思い出して、かぁぁ、と顔が熱くなった。
マルコは腕に抱かれている子供をちらりと見やり、ついでエースに視線を向ける。
真っ赤な顔でこちらを睨むその表情はどことなく扇情的で夜を彷彿とさせた。
ふ、と笑うと、子供の問いに答えてやる。
それも、素直に、正確な答えを。
「あぁ、そうだよい。俺たちは恋人同士だ。…珍しいか?ボウズ」
「なっ、何言って…っ」
マルコから発せられた言葉にまたも真っ赤に染まったエースを見てくつくつと笑いが漏れる。
見ていて飽きない。
へぇ、そうなんだ。とマルコの質問にはスルーして納得している子供に慌ててエースは問いかける。
「お、お前、どうしたんだ?お母さんたち、いないのか?てか、名前は?」
「なまえ…」
「そう、名前。あ、俺はエース、こっちはマルコ…お前は?」
「…ぼくは、ケイ」
そう言って子供はしょぼんと肩を落とした。
「ぼく、おかあさんたちと、来てたはずなのに…いなくなっちゃったの…」
よくみれば、たしかに子供が着ているのは、エースと似た形をした浴衣だった。
ただ、違うのは上と下で別れていて、下がズボンになっているところか。
あたりは暗く、提灯の明かりで辺りが明るく照らされている。どこかで盆でも始まるのか、神楽の上に乗った太鼓に数人の男たちが集まってきていた。
くいくい、と子供がマルコなうでから手を伸ばしてエースの浴衣を引っ張った。
「おにいちゃん、おかあさんどこいにるか分かる?…絶対はなれないって約束したのに、はなれちゃったからおかあさんおこってるかな?」
エースは、不安そうにいう子供の頭を乱暴に撫でるとマルコの腕から譲り受けて肩車をする。
「えっ?」
驚いた子供はそのままにエースは人好きのする笑顔で言った。
「これなら、見つけやすいだろ?お母さん。」
子供はぱぁぁ、と顔を輝かせてうん!と大きく頷いた。
いつのまにかエースの腕に抱えられていた食べ物は全て無くなっている。
二人のやりとりを見ていたマルコは、微笑ましい光景に口元を緩めながら、密かにため息をつく。
正直なところ、心中穏やかではなかった。
せっかく時間を作ってここまで来たというのに、こんなガキに邪魔をされては堪ったものではない。
遠くで呼ぶエースの声に応えながら、さっさと探すしかないよい、と思うのだった。


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あきゅろす。
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