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Marco×Ace
1
季節は、夏。
四皇白ひげ率いる白ひげ海賊団は、夏島の海域にある、ナワバリの一つである大きな島にいた。
天を仰げば、雲ひとつない真っ青な空に、太陽がギラギラと照りつける。
モビーディック号の甲板では、クルー達が騒いでいた。
中心にいるのは、この船の二番隊隊長である、ポートガス・D・エース。毎回、島にいる時の船番は各隊で持ち回しており、今回は、エース率いる二番隊がその役割を背負っていた。
ちなみに、ジョズ率いる三番隊は、食料調達、サッチ率いる四番隊は得意の情報収集など、やることがてんこ盛りの隊長達はバタバタと忙しそうに走り回っている。
二番隊の隊員達と騒ぎながら、エースは、船番は退屈だけど、楽だからいいな〜と呑気なことを考えていた。
(だけど…)
ちらり、とエースはひとつの部屋の扉を盗み見る。
シンとして、まったく開きそうにないその扉の中には、一番隊隊長で、エースの恋人でもあるマルコが一人で黙々と書類の山に向き合っていた。
今回、一番隊は下見班だったので、上陸してからの仕事はなく、皆、思いのままに過ごしていた。
しかし、前回・今回と上陸が立て続けになり、その上、白ひげのナワバリで暴れたバカどもの後始末などで仕事が追いつかないマルコは、上陸の間に仕事を終わらせるために今朝から一歩も外に出ていなかった。
エースが心配して軽い朝食を持って行った時も、ありがとよい、と言っただけで、視線は書類に釘付けになっていた。
エースとて隊長であり、マルコの忙しさはよく分かっていたので、黙って部屋から引き下がったが、寂しいものは寂しかった。
それに、とエースは考える。
今回は二日間の上陸のため、二番隊の中で船番を前半と後半組に分けていた。エースは、前半組だったので、明日は一日ゆっくり過ごせる。
今回、一番隊は自由だと聞いていたから、少しくらいならマルコと回れるかも、と思っていたエースにとって、いくら仕事とはいえ、まったく外に出くる気配のない恋人に、はぁ、と小さくため息をついた。


同じ頃、マルコも、山と積まれた書類の前でため息をついていた。
机の上には、処理し終わったものと、し終わらないものが綺麗に分けられている。もうかれこれ数時間はこの書類達と向き合っているが、一向に終わる気配のないそれにマルコはうんざりしていた。
外では楽しそうな笑い声がしている。
おそらく、二番隊の連中だろう。
今回の上陸は二日間のため、前後半組に分かれており、エースは前半組だった。
いつもの様に隊員達に囲まれてあの太陽のような笑顔でバカ騒ぎしているのだろうと思うと、自然と頬が緩んでしまう。
そんなことを考えて、すっかり集中力の切れてしまったマルコは、かけていたメガネを置いて、景気付けのコーヒーを貰おうと扉を開けた。
案の定、甲板でバカ騒ぎしているのは二番隊の連中で、その中心にいるのも、やはりエースだった。
マルコは、相変わらずの太陽のような笑顔を振りまくエースを見て、ふ、と小さく笑った。
まったく、こいつの笑顔は本当に癒されるよい…
そんなことを考えている時点で相当エースに溺れているのだが、本人はそのことにまるで気がついていなかった。
自然と惹きつけられる視線を無理やり戻して、頭の中でやり切らなければいけないことを考えながら歩いていく。
その時、マルコに気がついたエースがこちらに近づいてきた。
「マルコ、大丈夫か?」
開口一番に自分の身を案じてくれるエースを愛おしく思った。
心配そうな表情で聞いてくる彼は、聞いたはいいものの、何をしたらいいかはわからないようで、あの、えっと、などと慌てている。
そんなエースを、人目のつかないところで小さく手招きすると、不思議そうな表情で歩いてくる。
「なんだ?」
小さく首を傾げているその動作が可愛くて、思わずため息をつく。
高身長で、筋肉質で、お世辞にも華奢とは言い難い男に可愛いいなどという言葉は似合わないかもしれないが、事実なのだからしょうがない、と勝手に結論づける。
可愛いなんて声に出して言ったら、顔を真っ赤にさせて怒るんだろうな、とそうなったときを想像して、口元に小さな笑みが浮かぶ。
そのまま、目の前で不思議そうにしているエースに手を伸ばすと、ぎゅ、と抱きしめた。
「わっ、えっ、マ、マルコ!?」
いくら人目がつかないとはいえ、真昼間のこの時間。
誰が見ているかわからないことに顔を赤くしてエースは慌てる。
そのころころと変わる表情もまた可愛いと思ってしまう。
ちゅ、と額に口付けると、発火したようにエースの顔が熱くなった。
「な、なな…バッ、バカ、こんなところで…っ」
その反応が面白くて、強く抱きしめて、耳朶に軽く噛み付くと、ん、とエースが小さく声を上げる。
あわてて自分の口を抑えるエースを見て、ふ、と小さく笑った。
もっといじめてやりたいが、おそらくどこかで聞き耳を立てているだろう隊員達にエースの甘い声を聞かせてやる気などさらさらないので、我慢して、そっとエースの耳元で囁いた。
「エース。…明日の夜、あけとけよい。」
それだけ言うと、今度は軽く唇にキスをして目当てのコーヒーをもらうために食堂へ歩いて行く。
一人取り残されたエースは、恥ずかしさやら何やらで、へなへなとその場に崩れ落ちそうになった。

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