犬も遠吠えを止めた夜更けに、シクダイを終えたアリスは机を離れて、閉め忘れていた窓の向こうを仰ぎ見た。
「今日は、月が綺麗ね」
アリスは僕に月を見るよう促したけれど、僕は「そうかい」とだけ言って月を見ることはしない。
それを不思議に思ったらしいアリスは、月が嫌いなのかと僕に聞いた。
「別に、」
嫌いな訳ではないけれど、ただ、怖い。
月は全てを照らさずに、わざわざ爪や牙だけ光らせるから、臆病なアリスが怯えて、僕から離れていってしまうかも知れない。
それでも嫌いではないのは、アリスが綺麗だと笑うのもあるけれど、…月は所詮空の上で、僕がアリスに触れるのを、指をくわえて見ているしかないのだから
(あの憎たらしい兎より、どんなにましか……)
アリス、アリス、僕だけのアリス。
君が望んだ僕の姿は、決して美しいものじゃない。
僕は、君が望みさえすれば、どんな命だって奪うことができる。
そう、君が望んだ通りに白兎だろうとオカアサンだろうと、…君自身だろうと、終わらせることができるんだよ。
君はいつだってなんだって、ただ僕に望めばいい。僕の名を呼んで笑っておくれ。それだけで、君の望みは必ず叶うよ。僕が全て叶えてあげる。
(いつの日か、君自身の死を望む時がくるのだろうか)
(だとしても僕は、)
「ねぇ、隣にきて?…私の、猫」
彼女が珍しく僕の所有を主張したからか、自然と口角がつり上がるのを感じながら
僕はいつも通り、まるで呪詛のような言葉を吐く。
「僕らのアリス、君が望むなら」
僕は何だって叶えよう
例えば
それが君の最期だとしても
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