side:Tsunayoshi
リングが光ったと同時に気を失ったさくらさん。
だらんと力なく崩折れた四肢を支えると、俺は彼女を静かに地面に横たわらせた。
「ど…どうしたんだろうさくらさん。
まさか、クオーレリングに心を吸いとられちゃったんじゃ…!?」
「安心してください、沢田さん。その可能性は低いと思います」
ユニが言うには、さくらさんとリングの適合率は、かなり強いらしく余程大きな力を使わなければ心を失うことはないらしい。
それでも、突然倒れてしまったさくらさんに不安が募る。
遠くに響く戦いの音は少し治まってきていた。
もうすぐ決着をつけなければならない。
過去に帰るために―――平和な未来のために。
ザザ、と乾いた音が鼓膜を刺激する。
仲間と俺を繋いでいた小型の無線から、よく知った声が耳に届いた。
雑音混じりの言葉を俺は声に出して復唱する。
「本物の骸が戦場に現れた!?」
『あぁ正真正銘、復讐者<ヴィンディチェ>の牢獄から出た骸だ!
奴の弟子がそう言っていた』
骸は、10年前黒曜ランドでの戦いの時に捕まって復讐者の牢獄に拘束されていると聞いた。
脱獄不可能と言われたその牢獄から、脱獄してしまったのだ。
「さくらさんと途中で別れた山本さんもこちらに向かっています。
ボンゴレの守護者たちが、ボスであるあなたの元に集まっているんです」
そう言って穏やかに笑って見せるユニ。
その胸中は決して穏やかではないはずなのに。
さくらさんに視線を移すと、彼女が気を失ってずっとリングから放たれていた淡い光が消えた。
同時に、小さな肩が身じろぎをする。
「さくらさん!」
「…ん…私…?」
「さくらさん、リングが光ったと思ったら急に気を失ったんです。
どこもなんともないですか…?」
「骸…は?」
さくらさんの口から出てきた名前に一瞬言葉を失う。
なぜこの人が骸のことを知っているんだろうか。
彼女はこの世界に飛ばされてから、ずっとヴァリアーの所にいたと聞いているし、有幻覚の骸と一瞬対面しただけのはず。
けれど、それを疑問に思う素振りもなくリボーンが、脱獄して戦いに加わっていると告げた。
途端にさくらさんはほ、と安堵したように息をつく。
「そう…よかった…」
その表情は心底骸の身を案じていることを語っている。
リボーンはその彼女の言動の意味に気づいているらしかった。
「思い出したのか、さくら」
「―――はい。全て」
思い出す?さくらさんは記憶でも失っていたのだろうか。
リボーンだけでなく、ユニも彼女の表情の理由を知っているようで、わけがわからないままさくらさんに問おうとしたそのとき。
『十代目!聞こえますか』
「獄寺くん?」
焦ったような獄寺くんの言葉に急いで無線をつける。
聞けば、最後の真六弔花、GHOSTが戦場に現れたのだという。
その、GHOSTの能力を聞きゾッと背筋が冷たくなる。
『奴は危険すぎます…一刻も早くユニを連れて逃げてください十代目!』
「炎を吸い取る真六弔花…匣兵器も効かないなんて…」
みんなが…死んじゃう。
けれど、助けに行きたいと動き出しそうになる体を必死に押さえつける。
ユニや傷ついた正一さん、京子ちゃんやハルを守らないといけないんだ。
俺がここを離れるわけには…
「綱吉くん」
優しい声が俺の名前を呼ぶ。
あまり呼ばれなれない呼び方に、弾かれたように顔を上げるとさくらさんが眉を下げて口許に笑みを浮かべていた。
「助けに、行きたいんでしょう?」
「でも、俺はここでみんなを…」
「私がいるよ。私がユニちゃんたちをここで守る。
だから綱吉くんはみんなを…助けに行って」
「…さくらさん」
ユニも驚いたように彼女を見る。
強い決意が映る瞳は、さっきまで、何もできないと泣きそうな顔をしていたさくらさんとは別人だった。
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