Target 59:覚えていますか


※隠し弾 骸・幻想のネタバレと捏造を含みます

辺りが目映い光に包まれる。
けれどそれは不快感を伴うものではなく、あたたかく安心感さえ覚えるような優しい光。
さくらはこの光を知っていた。

―――あの時は必死で意識していなかったけれど、この感覚…私がこの世界に来る前に―――


「―――い…!起きるびょん!」


誰かに肩を揺すられ、ハッと目を開ける。
さっきまで確かにさくらはユニや綱吉と一緒に並盛の森にいたはず。
けれど、今さくらがいるのは教室だ。そこは、とても見覚えのある景色だった。

…元の世界に帰って、きた?いや、違う。ここは…


「まだ寝惚けてるびょん?」

「授業終わった…帰る」

「え…犬…千種?」


目の前にいるのは、黒曜中の制服を着た骸の仲間。
自分の姿をよく見れば、さくらも深緑の制服を身に纏っている。
親しげに話しかけてくる犬や千種に、さくらは頭が混乱していた。


「おや、今日はそちらのクラスが先でしたか」

「!」


教室の入口からひょこりと顔を出したのは、以前クロームの有幻覚で対面した姿より幾分幼い六道骸だった。
彼の姿を見て確信する。ここは、10年前の黒曜中だ。
なぜ突然、10年前の世界に、そして黒曜中に飛ばされてきたのだろうか。
骸なら知っているかもしれない。問い詰めようとして口を開こうとしたそのとき。


「遅かったね、樺根。それじゃ帰ろうか。
犬もお腹すいたみたいだし、駄菓子屋にでも寄ってさ」


自分の口が、勝手に言葉を紡いだ。
樺根。目の前の男を確かにそう呼んだのだ。


「ええ、そうですね」


チカリ。首もとが光る。
そこにはチェーンに通したクオーレリングが鈍い光沢を放っていた。
それと同時に脳裏に甦ってくるユニの言葉。
前を歩く骸と犬について、千種と並んで歩きながらさくらは、冷静を装いながらもひどく動揺していた。

間違いない。これは、自分の記憶だ。
この世界で生きていた頃、元の世界で生まれ変わる前の、切ないほどに優しく幸せな記憶。
なぜ、紙面越しのこの世界に惹かれたのか。今ならはっきりと分かる。
1冊の漫画との出会いが、止まっていたさくらの時間を再び動かしたのだ。


―――私は、黒曜中の生徒だった。樺根…骸が黒曜中を制圧し、ボンゴレ9代目に保護されるまでは。
骸は、どこかでリングの噂をききつけていたのと思う。
そして偶然、編入した黒曜中にそのリングと保持者である私を見つけ、近づいたのだ。


「どうかしました?さくら」


いつの間にか足を止めていたのか、だいぶ離れたところから骸が振り返る。
今、ここに立っているのは誰だろう。
ただ、この世界を描いた漫画が大好きな高校生の葉月さくらか、それとも。


「なんでもない」


口元に笑みを浮かべ、さくらは骸の背中を追いかけた。






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あきゅろす。
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