綱吉くん…ツナは、私の言葉に押されたのか、仲間を助けるためGHOSTの元に向かった。
ボンゴレ10代目。
漫画の中で初めてその存在を知った心優しき未来のボスは、私の彼に対する認識と何一つ相違のない少年だった。
「やはりあなたは…」
ツナを見送ったユニちゃんがこちらに向き直る。
これまで遠巻きに私たちを見ていた京子ちゃん、ハルちゃんもその後ろにいた。
「あの…話がビッグすぎてちょっとついていけてないんですけど、さくらさんはあの怖い人たちの仲間なんですよね?」
「正確には、あなたたちみたいに突然この世界に飛ばされて路頭に迷っていたところを、助けてくれた恩人なんです」
過去の記憶を見て、確信した。ユニちゃんの仮説は間違っていなかった。
私はこの、架空の物語だと信じて疑わなかったREBORNの世界の人間だったんだ。
「おそらく17年前、私はリングの力でこの世界から別の―――私がここに来る前に生きていた世界に飛ばされて、人格も記憶も初期化され赤ん坊として生まれ変わったんです。
そして普通の家庭で普通の生活を送り、高校生になった私は家庭教師ヒットマンREBORN!というとある物語と出会いました」
「リボーン?」
「かてきょーって…」
ビアンキ、フゥ太が次々に反応する。
リボーンと言えば、今私の肩に乗っている赤ん坊の名前だし、彼はツナのかてきょーだ。
そこから連想されるものは1つしかない。
「その物語には、ツナ…綱吉という男の子の所に赤ん坊の家庭教師が来て、ヴァリアーという集団と戦ったり、10年後の未来に飛ばされたりといったお話が描いてあるの。
身に覚え、ありますよね」
「それって…」
「この世界の出来事が、架空の物語になっている世界…すなわちパラレルワールドって言ったら分かりやすいですか?」
私は、生まれ変わる前の記憶がないにも関わらず無意識にその物語に惹かれた。
けれどそれは、私が生きていた世界だから。
記憶がなくても心のどこかで、この世界を覚えていたんだ。
「そして、突然10年後のこの世界にまた飛ばされた…戻ってきた、って言うんですかね?
けどやっぱりこの世界の記憶はなくて、物語の中の存在のはずの、ヴァリアーっていう組織が実在してることにただただ驚いたんです」
「つまり、この世界に来た時点でおめーは物語として未来を知ってたってことだな?」
「…そうです。私が知ってるのはチョイスが終わった直後まででした。
けど、物語の中にはクオーレリングなんて存在しなかったし私という人間もいない。
知ってるはずの世界で知らない存在があることが恐ろしいと思いました」
この世界をを物語の中の世界だと信じて疑わなかった時の私は、裏の世界なんてまったく関わりようがないただの平凡な高校生で。
命のやり取りがこんなに軽々しく行われているこの世界が怖かった。
スクアーロさんや、みんながいなければ、絶望の中でただリングの存在を知ることもなく死んでいたかもしれない。
「今だって、この世界で生きていた頃の記憶を視ただけで、私はただの高校生です。
けれど、このリングが大きな力を持っていて、それが役に立つなら、みんなのために何かをしたい、そう思ったんです」
不意に、暖かな腕が私を包み込んだ。
視界の端に映る蠍のタトゥーは、ビアンキさんだ。
「今までよく頑張ってきたわね。あなたは充分辛い思いをしたわ。
ここにはあなたを守ってくれる人がたくさんいるし、もっと周りに甘えていいのよ」
「そうですよ!ハル、ずっとさくらさんと仲良くしたいと思ってたんです。
もっと色々お話ししてください!」
「さくらさん、怖い人たちと一緒にいるから怖い人なのかと思ってましたけど、全然そんなことなくて…
私たちと一緒にいるときは、普通の高校生になってください」
ハルちゃんと京子ちゃんも口々に声をかけてくれる。
二回もの半生を生きていたなんて、誰が信じるだろう。パラレルワールドを越えるなんて、誰が信じるだろう。
この人たちはそれを当たり前のように受け入れてくれる。
やっぱり、わたしの大好きな漫画の、大好きなキャラクターたちなのだ。
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