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ぱち、ぱちん。



軽い、弾けた音が響く。

墨村家の居間に、こんもりと大きな、黒い塊が蹲って居た。


「……何してんの?」
「んー、爪切り。」


そう答えたと思えばすぐに、くいと顔を上げる。

「良守のも切ってやろうか?」


そう云って奴は、にこりと楽しそうに笑ったのだった。




或る愛の形




ぱちん、ぱちん。


差し出した指を固定され、けして深く切りすぎることのないよう慎重に爪を摘まれる。


それも、彼の膝上で。


腕を引かれて体勢を崩した瞬間に、そこへすっぽりと嵌ってしまった。
多いに暴れてはみたが、後ろから太い腕に抱き留められ、
ふう、と耳に温かな息を吹き込まれるのを感じ、びくんと躯が硬直した。

そのまま手を取られ、こともあろうに(まるで其の元凶を解していないように)、「暴れたら、指まで切れるかもしれないぜ?」と宣ってきたので、渋々ではあるが、そこに留まってやったのだった。



右の指を全て整えてから、左の手を取られる。

子供のように扱われるその行為が実に不愉快ではあったが、背中から伝わる温もりと穏やかな呼吸に、ほんの少し安らぎを覚えた。


くたり、と身体を預けると、兄の顎が頭の天辺に当たるのを感じた。
きっと笑ってるのだろうけど。



――――……‥・


一切を切り終えると、ぐいと兄の目線まで、手を引き揚げられた。
正守はうん、と満足げに呟くと、一旦、摘んだ爪を捨てた。
ご丁寧に鑢掛けまでしてくれるつもりらしい。








あきゅろす。
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