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良守の顔の横に、兄が顔を出す。
鑢を終えたばかりの指に、ふーと息がかかった。
ちらり、と横目で、其の尖らせた唇を見やる。


こいつ乾燥しないんだなー、などと、すこし羨ましがってみる。
冬場にはよく切れてしまう自分の唇を噤んだ。

先日兄から贈られたリップクリームは、なんだか癪ではあるけれど、確かに役に立っていた。



ふいに視線を感じ、慌てて目を指先に戻す。




くす、と小さな笑いが洩れたのを良守は聞いた。

(……やべー…。)



「良守、ちゃんと塗ってんだ。」


それはもう、楽しげに、彼が云った。
何を、と伝えるように、良守の下唇のすぐ下を冷たい指がなぞる。


「…っ捨てるわけにもいかないだろ、」
それに、まぁ確かに、くちびる切れるの嫌だし。
素直にそれを使っていることを認めるのがなんだか気恥ずかしく思えて、まるで自分に言い聞かせるように、ごにょごにょと言い訳をついた。






「…兄貴は、くちびる切れたりしないの。」

ふと感じた疑問はそのまま口を付いて出てしまっていた。


くい、と顎を上げ、背後から覗きこむ兄を見やる。
正守は、一瞬きょとんとした顔で、良守を見た。




「あはは、俺も一応気をつけてるんだよ」
腕の中の弟を愛おしむように目を細める。



――良守、だってね?



良守の視界が暗くなって、そのまま額に柔らかな感触を得た。



お前もその方が気持ちがいいだろ?





含んだ笑みが、にやりとしたものに変わった瞬間を見届けて、
(――嗚呼、またやってしまった。)
と良守は、これから自分に降り懸かるであろう災難を想い、大袈裟な溜め息をついたのだった。









あきゅろす。
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