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MAGI☆NIGHT〜Making Good Relations,OK?〜
第46話 香澄の妹





◆◆◆



窓から入る月光で、廊下は思いの外明るい。




香澄「で、次はドコ行くの?」



勇人「んー………理科準備室とか?」



香澄「理科準備室ぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜??????」



途端に香澄は露骨に嫌な表情をしてみせた。





勇人「おや、恐いのか?」



香澄「……………こ、恐いなんて言ってないでしょ」



と強がる声はかすかにビブラートがかかっている。




香澄「ただねぇ、この局面で何故そんな場所に行かねばならないのか………読者を納得させる理由付けを用意していただけませんと、先生」



勇人「何処の編集者だ。理科準備室っていやぁ、音楽室に並ぶ怪談の定番だろーが。アクロバティックな人体模型とか、演歌を熱唱する骸骨とか……」



香澄「何、その骸骨と人体模型。そりゃまぁ、場所は定番だけど………私逹は別に学園の怪談ツアーをやってる訳じゃないのよ?」



勇人「なんならまた1人で待ってて構わねーぜ」



いつまでも動こうとしない香澄に痺れを切らして、勇人はすたすたと歩き出した。




香澄「あ、やだ! ちょっと待ってよぉ〜〜〜〜〜」



背中から慌てた声と足音が追いすがってくる。





◆◆◆



準備室は理科室と隣接する形になって、薬品などをしまってある関係上一般の教室とは違う作りになっていた。




香澄「どうするの? 鍵がかかってるんじゃない」



勇人「鍵ねぇ………」



ピッキングで開けるか。と思考した勇人だったが、その瞬間………






―――――がたんっ!!!!




香澄「Σっ!?」



勇人「あ゙?」



何かが倒れたような音が部屋から聞こえ、勇人は一応何があったかを窓から覗き見る。



ふと、扉に少しだけ隙間が出来てることに気づいた。




勇人「………開いてる?」



香澄「どうしたの?」



勇人「扉が開いてやがる」



香澄「なんだかよくわかんないけど、開いたんならいいじゃない。入ろ、入ろ」





◆◆◆



《理科準備室》




埃と古いアルコールの匂いに充ちた狭い空間。それでなくとも薄気味悪い理科準備室の中は、いかにも妖怪の好みそうなロケーションだ。



勇人(ま、探しにきたのは妖怪でなく幽霊だが………)




かすかな光に浮かび上がる人体模型や、中身がなんだか分からないガラス壜。





香澄「ね…ねぇ、電気つけちゃ駄目………かな?」



香澄はもう声の震えを隠そうともしていない。




勇人「んなことしたらさすがに誰かに気づかれるだろ?」



一応今卒パが行われている本校以外は、立ち入りが禁止されている。




香澄「だ…だって、ほら! あそこに誰か人が…………」




闇の中にうっすらとこちらを向いた人影が見えた。





勇人「ただの骨格模型だろー……………」



と、言いかけた勇人はふと口を紡ぐ。




香澄「ちょ…ちょっと、どうしたの? 急に黙り込んで」



勇人「……………」


香澄「勇人! お願い、何か言ってよ!」



勇人「………妙だな」



香澄「え………?」





















勇人「あの骨格模型、入ってきたときには入口の直ぐ右手にあった筈だが………」



香澄「やだ、まさか……やめてよぉ!!」



勇人「………気のせいか」





特に霊気も感じられず、勇人は気のせいということにして、勇人と香澄は理科準備室を後にした。





◆◆◆




勇人「………ホントに気のせいだったのかねぇ、あの骨格模型」



香澄「……まだ言ってんの?」



確かに霊気の類いは感知されなかったが、勇人は確かに骨格模型の位置が変わっていたように見えた。




香澄「だいたい………あんなガイコツのある場所に、明日美がいるはずはないのよ」




低い声で、香澄は呟いた。




香澄「私と同じで、あの子だってガイコツが大の苦手だったんだから………」



勇人「………明日美ってのは誰なんだ? さっきも“あの子”がどうとか言っていたが………」



香澄「………………」




香澄は立ち止まり、窓枠にもたれかかった。



雲間から姿を現した月光に照らされ、その貌は美しく見える。




香澄「明日美は、私の妹なの………三年前の今日、事故で死んじゃったけどね」



勇人「…………」



香澄「…………私は、妹の霊に会いに来たのよ」




香澄は、途切れ途切れに、語り始めた。




香澄の妹……明日美は生まれつき重い病気にかかっており、学校に通うこともままならなかったのだという。



お姉ちゃんと一緒の学園に行きたい、という明日美の願いをせめて少しでも叶えたくて―――――。



香澄は妹を卒パに連れて行くことを約束した。




香澄「あの子、何日も前からすごくすごく楽しみにして……どの教室をどんな風に回るんだって計画までたててたのに………」





◆◆◆



-香澄 side-




紫になった唇。



浅くて早い苦し気な呼吸。



私にもたれた明日美の身体は頼りなげに震えて、しっかり抱いていてあげないと今にも消えてしまいそうだった。




香澄「大丈夫……大丈夫だよ、明日美。アンタは強い子なんだから。私の妹なんだから」



明日美「お姉ちゃ…………………、ごめんね………卒業式の日……………………なのに………………」




かすれた声で、隈のできた顔で、明日美はすまなさそうに笑おうとする。



私は涙がこぼれないよう、しっかり唇を噛み締めて首をふった。



アンタのそんな所、大っ嫌い。



どうしてこんな時にまで、いい子でいられるのよ。



辛い、苦しいって誰も彼もに当たり散らしても許される立場なのに。




香澄「お父さん、もっと急いで! お願い!!」




私は運転席に首筋しか見えないお父さんに向けて怒鳴る。お父さんがどんな気持ちかよく分かってるくせに、乱暴な口調で。



車の外を風見学園の門が遠ざかっていく。




明日美………………。




私だって明日美と同じ学園に通いたかったよ。




明日美はピアノが得意だから、私と同じクラブに入んなさい。後輩としてみっちりしごいてあげるわ。



そうだ、ここって図書室の蔵書も豊富なのよ。あんたになら、窓際の指定席を譲ってあげてもいいから…………………………………。



だから、死んじゃ駄目。



絶対、絶対に死なせないわよ。



















香澄「!?」



突然けたたましいクラクションの音が鳴り響いた。顔を上げると、フロントガラスいっぱいに迫る大型トラック―――。




私は反射的に、明日美の身体に覆い被さっていた。







◆◆◆




-通常 side-





香澄「私とお父さんは奇跡的に助かったの……なのに、妹だけが……………」




勇人「…………………」



香澄「私が……もっとしっかりあの子を抱き締めていてあげればよかったのに」



勇人「……………」




勇人は、言うべきかどうか、珍しくも少し迷った。



香澄の、その間違いに。



語った言葉の、その矛盾に………。





香澄「1日だけ現れる幽霊の噂を聞いて、もしかしたら………って思ったのよ。あの子はホントに、卒業式を楽しみにしてたんだから」



勇人「………そうか」




まったく、事情も知らずに面白半分に記事にしようなどと考えたのはどこのどいつだ。





香澄「………ふぅ〜ん」



ふと気付くと香澄はもとの何処か人を食ったような表情に戻り、勇人の顔を覗き込んでいた。





勇人「………何だよ?」



香澄「いやぁ。シリアスな表情すりゃ意外と見られる顔してるのにな、と思って」



ニヤリと笑ってそんなことをのたまう香澄。




勇人「あ゙ぁ゙? テメこんな絶世の美青年相手に何ほざいてやがる」



と大マジに返す。とたんに香澄は笑い転げた。



――――勇人の顔をおもいっきり指差しながら。




香澄「ぶっ…………あっははははっ!! よっく言うわね〜」



勇人「何が可笑しいんだよ………」



香澄「だって、だって………………ぶっくくくくくぅ」



勇人「……………」






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