MAGI☆NIGHT〜Making Good Relations,OK?〜 第47話 幽かなキス ◆◆◆ 勇人「………で、次は何処を当たる? そろそろ香澄が決めてくれ」 香澄「そうね、じゃあ図書室に行ってみましょ。明日美は本を読むのが大好きだったし」 勇人「…………そうするか」 ◆◆◆ 《図書室》 図書室のドアを開くと、独特な湿った紙の匂いが微かに漂ってくる。 林のように並んでそびえる本棚の群。 香澄「私、あっち側から回ってみるわ。勇人は反対から見てきて」 そう言ってスタスタと歩き出す香澄。 勇人「て、1人で大丈夫なのか?」 香澄「なによアンタ〜、恐いの?」 不服そうな表情で引き返してくる。 勇人(いや、それはお前だろ) そう言おうとした勇人だったが、ただ喧嘩の火種をばら蒔くだけのような気がして黙っている。 香澄「しょうがないわね、そんなに恐いなら側にいてあげるわよ。恐いなら恐いって言えばいいのに♪」 勇人「違ーっつの………」 百科事典の『ア』行から始まり、ティーンズ文庫のコーナーまでぐるりと回る。 ◆◆◆ 勇人逹は大きな机が並べられた読書スペースで、一休みすることにした。この一角には窓からの月明かりが落ちて結構明るい。 勇人「……………」 香澄「明日美は………もしかしたら、もう卒業しちゃったのかもね。これだけ探しても見つからないんだもん」 なんとなく可笑しそうな声で、香澄が呟いた。 勇人「卒業………」 香澄「そうよ。三年経てば卒業して当たり前でしょ」 勇人「順当にいけばな」 香澄「失礼ね、あの子は私に似て頭良かったんだから!!」 勇人「行きたいと望んでいた学園で三年を過ごし、思い残すことがなくなったから、卒業した……か?」 香澄「うん……私もだんだんそんな気がしてきたの。明日美はただ、私と同じこの学園に通いたかっただけなのかもしれない。あの子が恨みや迷いの心を持って幽霊になったんじゃないなら、どんなにいいかしら」 勇人「ま、香澄ん家の事情はよく知らんが、話を聞く限りは随分仲のいい姉妹のようだからな。三年間学園生活をエンジョイしたんじゃねーか?」 香澄「……………」 黙り込んでいた香澄が、やがて顔をあげてにっこりと微笑む。 香澄「アリガト…………勇人。アンタって見かけによらずいい奴なんだ」 勇人「どーいう意味だ?」 「見かけによらずってなぁ……」と文句をつけようとして、勇人は動きを止めた。 幽かに潤んだ瞳。 ピスクドールのような白い肌。 さらさらと揺れるショートカットの髪。 勇人の直ぐ鼻先に、香澄が顔を寄せていた。 勇人「……………何だよ?」 香澄「…………してあげる」 ぽそっと呟く言葉を聞き取れず、勇人は首を傾げた。香澄の唇から同じ言葉が漏れる。 香澄「キス…………してあげるよ」 勇人「あ゙?」 香澄「嬉しかったから………お礼」 勇人「……………」 香澄「眼、閉じてよ」 勇人「……………ハァ」 ひとつ息を吐き、勇人は唯々諾々と瞼を閉じる。 香澄「………眼開けたらひっぱたくからね」 瞼の上に落ちるかすかな光がふっと遮られる。ほのかな芳香が近づいてきたかと思うと………… ほんの、一瞬。 ひやりとした柔らかなものが勇人の唇をかすめて通り過ぎた。 香澄「……ほら、いつまでボケッとしてんの」 呆れたような声を合図に、勇人は再び眼を開けた。 勇人「………終わりか?」 香澄「そうよ、なに変な顔してんの」 勇人「やれやれ…………」 香澄「もしかして、も〜っと濃厚なヤツを期待してたワケぇ?」 勇人「まーな」 香澄「バーカ、彼氏でもない男にそんなの出来る訳ないじゃない」 勇人「小学生みたいな安易なキスだったからな」 香澄「…………まぁ、勇人がこの先私の彼氏になる気があるんなら………………やり直してあげてもいいけど?」///// ちらり、と恥ずかしげな視線を送ってくる香澄。 香澄「イケメンは浮気の心配があるんだけど、勇人なら性格がヒネてるから安心だし」 勇人(だからどーいう意味だ?) 香澄「それに……私逹姉妹のこと、分かってくれたし………………」 勇人「………………」 今度は、香澄のほうが瞼を閉じた。 雲が月を隠して、図書室は闇に包まれる。 手を伸ばせば届く距離に……。 女の子と二人きりで。 勇人「…………やれやれ」 本日何回目かもわからない息を吐き、勇人はその手を香澄の頬に……… ―――――パチン!! その刹那、まばゆいばかりの光が辺りを照らし出した。 勇人「っ」 反射的に自らの身体で香澄を隠す。 暦「なんだ、声がすると思ったら………神爪じゃないか」 勇人「なんだ、暦か」 部屋の電気をつけたのは白河暦だった。 勇人「なんだ、見回りか?」 暦「まぁね。てゆーかお前、こんな時間に何をやってる」 勇人「なに、返却し忘れていた本を返しに来ただけだ」 暦「ふーん、そうかい………」 とっさにそれらしいセリフを吐いてみたが、あからさまに不審げな口調の暦。 暦「だいたい、返却しにきただけならどうして電気をつけない?」 勇人「一応付属校舎はもう立ち入り禁止だからな。見つかると面倒だと思っただけだ………今見つかったが」 暦「………まぁいいか。早く本校舎に戻るか帰るかしろよ」 勇人「ああ、わかってるって」 コツコツと廊下を足音が遠ざかっていくと、勇人は大きな溜め息を吐いた。 香澄「…………行っちゃった?」 背後から顔を出して様子を窺う香澄。 勇人「たまたま暦だったから良かったが、面倒な教師にでも見つかったらどーするつもりだ?」 香澄「あははは………どーしようね?」 ◆◆◆ ここに入ってきたときより、月も大分動いている。かなり時間も遅くなってしまった。 卒業パーティーも、もうすぐ終わる時間帯である。 勇人「どーする、そろそろ引き上げるか?」 香澄「んー………私は別にいいけど、勇人はどーするの? 記事、書かなきゃいけないんでしょ」 勇人「その辺は俺様がテキトーにでっち上げるさ」 最悪セバスチャンやネロに夜の校舎を徘徊してもらうか、と勇人は密かに企んだ。 勇人「香澄も記事書くのに協力してくれないか? 明日美のことを書く訳じゃなく……動く骨格模型とかブッ飛んだ木琴の音色とか」 香澄「くすっ……それならいくらでも尾鰭付けてあげるわよ♪」 勇人「いつ頃なら空いてる?」 香澄「そりゃ、独り身だからね。いつだって大丈夫!」 にっこりと笑って答える香澄。 ―――チャッチャラッチャ〜♪ 勇人「ん?」 その時、ポケットの中で携帯が着信音を奏で出した。 それは一瞬で終わり、液晶には“着信メール有り”のメッセージが。 勇人「………杉並か?」 このタイミングでメールを送ってきそうなのは奴くらいだが…………。 受信メールはカタカナのみの短いものだった。 『ナカニワニイルヨ アスミ』 香澄「アスミ………明日美から!?」 画面を覗き込み、途端に顔色を変えて中庭へと駆け出す香澄。 勇人「…………どーいうことだ?」 闇の中へ消えていく香澄を追いかけて、勇人も駆け出した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |