ハニーキャット
18
仕度を終えてムサシと一緒にダイニングに向かう。
「おはようパパ、ママ」
「おはよう蜜樹」
ママがムサシのごはんを置いた瞬間、ムサシは勢いよくママの元にかけ寄っていった。
現金なムサシの姿を眺めながらパパ向かいのイスに座ると不服そうなパパの声が耳に入る。
「蜜樹!いつになったらパパをオヤジって呼んでくれルノ!?」
「ディック…朝の挨拶はなに?」
「…オハヨウゴザイマス」
なんてママに怒られている姿を笑いながらテーブルの上の朝ごはんを見る。
トーストとサラダとスクランブルエック。
この並びだけで今日の朝ごはんはママが作ったとわかる。
パパだと和食大好きだから朝ごはんは炊きたての白いご飯と和食定番のおかず作るし。
ママはよく作るわねぇって呆れるくらい手早く用意できるパンと軽めのものだもん。
「蜜樹カフェオレ、ミルクどっち?」
「んーミルクがいい」
「ミルクねー」
ミルクの入ったコップをテーブルに置かれてから「いただきます」と手を合わせてから、トーストにバターを塗ってかぶりつく。
「うー蜜樹はいつになったらパパからオヤジにナルノ?」
「まだ言ってる…」
「だって昔からの夢なんダヨ!日本男子ぽくオヤジと呼んで欲しいんダ!」
だだっ子のようにしつこいパパの訴えにボクは苦笑いを、ママはため息をつきながらイスに座った。
パパ日本大好きだもんね。
ボクも好きだから分かるんだけどいきなりオヤジなんて慣れないし恥ずかしくて呼べないよ。
ミルクで口の中のパンを流し込んでから、パパをなだめるために口を開く。
「ずっとパパできたんだからもういいでしょ?」
「うぅ…ヒドイよ恵倫子、蜜樹がボクのお願い聞いてくれないんダッ」
「ディック、いい加減に早く食べなさい。原稿が溜まっている筈じゃないの?」
「ワーワー!恵倫子までヒドイよ!!」
ママの冷たい返しに声をあげるパパを見ながらサラダを口に放り込む。
ママたら編集者さんモードに入っちゃったなぁ。これでパパはいじけるだろうけど静かになるだろうな。
絵本作家のパパは締め切りに厳しい編集者さんに弱いから、このモードのママには絶対敵わない。
そんなことを思いながらモグモグと朝ごはんを平らげていく。
「あ、そうだこのYシャツって蜜樹の?」
「んー?…ングッ!?」
ママが見せてきたYシャツ見た瞬間、口に含んでたトーストが変なとこに入り蒸せかえってしまった。
大丈夫か心配するママとパパの声に急いでミルクを飲みほして落ち着く。
ハルさんからのYシャツ洗濯して乾燥機かけてから取り出すの忘れてた〜!
ママ達に昨日の出来事を勘ぐられないかヒヤヒヤしながら答える。
「えと、うんボクのだよ」
「そう…それにしてはサイズが少し大きくない?買った覚えもないし」
「あ、その…実は昨日汚しちゃって借りたんだ」
ボクの言葉にママの片眉がピクリと動いたのを見てマズイこと言ったかと冷や汗が止まらなくなる。
さすがにママ達にあの事は知られたくないし、心配もかけたくない。
どうにか誤魔化さないと……。
そんなボクの状態を知ってか知らずか少し間を開けてから静かに声が発せられた。
「…じゃあ汚したYシャツわ?」
「え…と、その……」
上手い誤魔化しの言葉が浮かばず口ごもっているとママの深いため息の後の言葉に体が固まる。
「……蜜樹あなた学校で何かあったりしてないでしょうね?」
「ッ……ないよ、何にもない。昨日はちょっとボクの不注意でダメにしちゃったんだ」
「本当に?」
「ホントだよ…あ、もう時間だ!ごちそうさま」
ママの疑いの眼差しに耐えきれなくなりママからYシャツを奪うように取りバッグに押し込み急いで玄関に向かった。
後ろでママの制止の声が聞こえたが構わず靴に履きかえる。
すると…
「蜜樹」
「…パパ」
「それ借りモノでショ?」
眉を下げながら指された指の先を見るとハッと我にかえる。
乱暴に入れたハルさんのYシャツはバッグの中で軽くグシャグシャになっていた。
ハルさんからの借り物なのにボクったらこんな乱暴に扱って…。
ハルさんへの申し訳なさと自分の注意不足に落ち込む。
「これに入れていきなさい」
「…ありがとう」
パパから手渡されたのは小さな紙袋。
それ以外、何も言わずに渡された紙袋にいそいそとハルさんのYシャツをキレイに畳み直し入れた。
「それじゃいってきま…」
言い終わるより前にパパは両手を軽く広げて微笑みを見せていた。
あ、と声を漏らしながらボクはおずおずと腕を回しいってきますのハグをする。
「ボクもママも蜜樹が大切だから何かあったら、どんなことでも言ってね」
「うん、いってきます」
ぎゅっと抱き締められながら、その言葉に軽く頷くことしかできなかった。
ハグをし終えパパの笑顔を見てから、ドアを閉めたと同時にYシャツの入った紙袋を軽く抱き締める。
ウソをつくのってツラいなぁ。
でも心配かける方がもっとツラいと思う。
暗い気持ちを静めるために軽く深呼吸をして、よしっと気合いを入れて学校へと歩みを進めた。
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