情報屋、やってます。 4 目の前の櫻井弘人が呆れ顔でため息を吐いた。 「………とーやくんが最っ低なのは前々から噂で聞いてたし、今更驚きもしないけどね…今の話のどこが"dog"を裏切らないって証明になるのさ」 「今のとこ、ここらへんのチームで俺にとって魅力的なのは"dog"だけや。そもそも大きいチームは"dog"と"bat"の2つだけやしな」 昔に比べたらだいぶ減った。 しかも大きいと言っても相対的な話で、"bat"のメンバーはせいぜい20人かそこら。 俺が高1の時は、メンバー50人以上のチームが5、6個あって、割りと勢力も均衡してた。 今はそれが"dog"だけで、ほとんど抗争してないとはいえ、実質このあたりの高校生チーム1位。 「"bat"に移りたくなる可能性もなくはないでしょ」 「それはないな。俺が"dog"に入りたいのは、その"bat"を潰したいからや」 「潰したい…?」 「俺あそこのチーム目障りやしせこい奴しかおらんし、大っ嫌いやねん」 「だから、次の"bat"の標的になりそうな俺らを利用して潰そうって?」 「……そういうこと」 相田正行はなるほどと呟きながら頷いている。が、 「そんな簡単に利用されてやるわけないだろ」 櫻井弘人がそうバッサリ切り捨てた瞬間、ぴたりと動きを止めてから、今度は首を傾げだした。 なるほどとか言っときながら絶対わかってなかったやろ。 「もし俺らを利用して"bat"を潰したとして、その後とーやくんの標的が"dog"に移る可能性だって十分ある」 「……」 俯いて考え込むふりをする。 櫻井弘人は頭がいい。 先に潜む危険もちゃんと考慮してる。 だからこそ読みやすいねん。 考え付く危険なんてだいたい1個か2個程度。 俺はその数少ない危険への打開策を考えれば済む話。 櫻井弘人は恐らく「俺を"dog"に入れた後」の危険に気を取られて、「今」の危険に気づけてへん。 まあその危険なんてのは、実際"dog"の害にはなり得ないけどな。 俺、ほんまに"dog"つぶす気あれへんし。今は。 たっぷり時間をおいてから、ふー、とため息をつく。 「ほな、"dog"に入れてもらうのは、"bat"が潰れるまででえーわ」 「…」 「"bat"を潰した後に俺が今度は"dog"を潰したがるのを怖がってるんやろ?だったら、その前に俺が"dog"を抜ければ問題ないんとちゃうか」 「……それは、あくまでとーやくんが嘘をつかずに"bat"をまず潰したいと思ってるっていうのが前提じゃん。そもそもが嘘で"dog"を初めから潰したがってるんだって可能性が捨てきれない内は、やっぱり入れるわけにはいかない」 「疑り深いなぁ…」 こんな疑いも、予想の範囲内やけどな。 「毒盛られて殺されかけたやつらと、それをほとんど何の見返りもなく助けてくれたやつら、どっちを潰したいかなんて、考えなくても明らかやで」 「…………」 今度は櫻井弘人が考え込む番。 考えろ考えろ。 考えるほど、俺を入れるって選択肢しかなくなるやろ? 「"bat"の奇襲情報、俺ならすぐ仕入れたるよ」 「…奇襲されても勝つ自信があるって言われたら?」 「……ふぅん?」 挑発的に疑問符で返してやれば、櫻井弘人の眉が不機嫌そうに寄った。 「なにさ」 「一回潰されてるのに、その自信はどっからくるんやろなぁ思って」 今度は機嫌が悪いじゃ済まされへんような、人を射殺すような目つきに変わった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |