風の中 2 風紀室のドアを開けようとしたら、向こう側からドアが開く。 「北原か」 副委員長だった。 お辞儀をしつつ、邪魔にならないようにさっと横に避ける。 しかし、副委員長は横を通りすぎることなく俺をじっと見てきた。 「……?」 「顔色、悪いぞ」 「………あ、ぇと…大丈夫です」 「大丈夫なわけあるか」 副委員長の手が俺のデコにぴとりと当てられる。 触られることに拒否反応はない。 これも辰樹が心のケアをしてくれたおかげだろう。 「熱はなさそうだが…一応今日は帰って、ゆっくり休んどけ」 「いや、でも、」 「ほら、いいから。鞄取ってこい」 「え、」 無理矢理風紀室の中に押し込まれる。 「長谷川、北原が調子悪いみたいだから帰らせる」 俺の後ろから副委員長が長谷川さんに声をかけた。 書類仕事をしていた長谷川さんは、やはり心配そうな顔になって、はっとこちらを見た。 「…大丈夫か?」 「…うす。全然、ほんとに…」 「顔色悪いだろ、こいつ」 グイグイと副委員長に押されながら、鞄のある場所に近づく。 「北原…」 長谷川さんは椅子に座ったまま、まだこっちを心配そうに見つめていた。 あぁ、長谷川さんに見られるのが、辛いとか。 こんな日が来るとは思っていなかった。 長谷川さんを好きでいちゃいけないんじゃなくて、長谷川さんと同じ空間にいちゃいけないのではないだろうか。 俺なんかが、長谷川さんの視界に入ること自体が、間違っている気がする。 というか、俺自身が長谷川さんの視界に入りたくないと、思ってしまっているのかもしれない。 もう、風紀やめようかな…。 いや、あと1ヶ月続けてみよう。 それでもし無理だと思えばやめる。 何があっても、1ヶ月は、頑張ろう。 俺はそんなに弱くないはず、だ。 俺は、…………。 「北原?どうした?」 「え、ぁ、すんません」 鞄の前で立ったまま動かない俺を不審に思ったらしい副委員長が、後ろから俺の顔を覗き込んできた。 あー、考え事してる場合じゃねぇ。 急いで鞄を持って肩にかける。 「そんじゃ、あの…すんません帰ります。…明日は、絶対途中で抜けたりとか、ないように、します」 「いや、調子悪いなら無理しなくていいんだぞ」 「大丈夫です、頑張ります」 副委員長と、なにより長谷川さんの視線から逃れるように、風紀室から逃げ出した。 全て忘れ去ってしまえればいいのに [*前へ][次へ#] [戻る] |