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だって貴方専用の罠だもの(初夢/年齢操作)
※年齢操作(1年→4年)

















ふ、と一瞬の浮遊感と、その直後に体が重力に従う感覚。

(あ、落ちた)

そう思った時には、落下距離相当の衝撃が襲ってきて、思わず眉をしかめた。咄嗟に受け身を取ったから良かったものの、やはり痛いものは痛い。溜息を一つついて、外を見上げる。困ったことに、穴はなかなか深いようだ。上れないほどのものではないにしろ、億劫になる距離であることは間違いなかった。

よく掘ったなぁ、と掘りあげた相手に感嘆しながら、穴の壁に背を預ける。この辺りは人通りは少ないが、どうせ、犯人がもうすぐやってくるだろうから、無理をすることはない。大人しく待っているのが上策だろう。

…ここのところ毎日、孫次郎は、一人の人間によって仕掛けられた罠にはまり続けていた。幸いにして大きな怪我もないし(掠り傷や多少の打撲は毎回だが)、相手にも、孫次郎に怪我をさせるつもりはないらしい。しかし、毎回毎回、孫次郎が罠に引っ掛かる度に、助けに来る当たり、真意が読めなくて、少々悶々としていた。

(今度は落とし穴か。ネタが尽きてきたかな……ああ、でも、踏んだら吹っ飛ぶシリーズよりはマシかもしれない)

あれは飛距離も落下地点も、掛けられる側は読めないから、なかなか怖い。こういうスタンダードな罠の方が孫次郎としては慣れている。



ふと穴の中に影が落ちる。どうやら犯人のお出ましのようだ。

「三ちゃん」

呼びかけると、孫、と柔らかな声が返ってくる。逆光でよく見えないが、おそらく微笑んでいるのだろう。心なしか、声が嬉しそうに弾んでいる。
ふぅ、と息をついて、手を伸ばす。すぐに三治郎が手を握って、穴から引っ張り上げてくれた。

「このくらいの穴なら、孫一人ででも上れるでしょ?どうして上ろうとしなかったの?」
「だって、ちょっと待ってれば三ちゃんが来るでしょ」
人の手を借りて上った方が楽だろうと思ったから。

そう返せば、三治郎は、意地悪そうに眼を細める。

「僕が来なかったらどうしたの?」
ここ、あんまり人通らないし、僕が来ない確率の方が高いよ?

にっこり、という擬音がつきそうな、完璧な笑顔。余裕たっぷりな三治郎の態度は、なんとなく悔しい。

「来ないわけないよ。これ、三ちゃんが掘った落とし穴だから」
「なんでわかるの?僕じゃないかもしれないじゃない」
「三ちゃんだよ」

僅かにむっとしたように片眉を跳ね上げた相手に、確信を持って返す。「…なんで」、と三治郎は唇を尖らせた。

「だって、最近僕がかかる罠は、全部三ちゃんが作った罠だから」
それに、こんなとこ通るの、僕か三ちゃんぐらいだし。また三ちゃんが僕に罠を仕掛けてきたんだろうと思って。

とつとつと続けていけば、三治郎の眉根にどんどんとしわが寄って行った。それ全部ただの推測じゃない、と吐き捨てるように呟く彼に、まぁ、そうだね、と軽く返す。
更に眉間のしわが深くなっていった。

「…綾部先輩の残してった落とし穴かもしれないよ」
「…さすがに去年卒業した先輩のものを、用具委員が見逃すはずないと思うけど」

ぐぅ、と三治郎は泣き出しそうに顔を歪める。もーいーよ、と呟いて背を向ける姿に、少々の罪悪感。苛め過ぎたかなぁ、と心中で小さく零した。
立ち去ろうとする彼の手を掴む。

「なに」
「ごめんね」
「なんであやまるの」
「ほんとは、理由なんてなかったから」
三ちゃんが余裕たっぷりなのがちょっと悔しかっただけ。だから、ごめんね。

そっと彼の手を握れば、強張っていた体から力が抜けて行った。

「理由なんてない、って…」

ぼそり。聞こえるかどうか位の声。じゃあ、なんでぼくが仕掛けたって思ったわけ、と零す。

(…そういえば…)
「なんで、だろう」

三治郎の言う通り、孫次郎が並べた理由は推測にすぎず、加えて、後付けした理由だ。だから、理由なんてほんとはない。では、なぜ三治郎が仕掛けたなどとすぐに思ったのか。もし三治郎以外の誰かが掘ったものなら、孫次郎は穴の中で愚かな姿をさらしていただろう。

考えてはみたけれど、孫次郎には、確信を持っていた理由は分からなかった。

「…なんでかはわからないけど、三ちゃんだからなのかもしれない」
「え?」
「三ちゃんのことなら、多分大体わかるんじゃないかな。だから、三ちゃんが掘ったってわかったのかも」

自分でも目茶苦茶な事を言っているのは分かっているつもりだけれど、と付け足すと、三治郎がうつむいて、ぎゅう、と孫次郎の手を握った。

「…なんなんだよ、もう」

孫のばか。ぽすり、と孫次郎の肩口に頭をのせて、三治郎は零す。

「なんで孫ってそういっつも冷静なわけ。いくら僕が罠を仕掛けても、驚いたのって最初の二回くらいだし。踏んだら吹っ飛ぶシリーズじゃ駄目なら、って思って落とし穴にしても驚かないし」
「嫌なの?」

「嫌、っていうか」
悔しいの。僕だけが一杯一杯で、余裕なんてなくて。孫は淡々としてるし。

だから崩してみたかったんだと、三治郎は重い溜息を漏らした。

「しかも、何なんだよあの理由。僕だからわかったなんて」
なんであんな殺し文句さらっと言えちゃうのさ、孫の天然!ばか!

今度は顔をあげて、孫次郎を睨みつける。その顔は朱に染まっていて、可愛らしい。
三ちゃん可愛い、と素直に呟くと、何言ってるんだよ!と真っ赤になって吠えられた。
そんな姿がまた可愛いと思うけれど、とは口にはせずに、そっと三治郎の頬に手を伸ばす。

「罠を仕掛けたり、カラクリ作ったりするのを止めはしないけど、ちゃんと寝てね?」

うっすらできた隈をなぞる。落とし穴だって、夜中の内に仕掛けたのだろう。毎日毎日、何らかの罠を仕掛けるために、睡眠時間が削られていただろうことは想像に難くない。
むぅ、と唇を尖らせてから、彼は小さくうなずいた。
一つ頭をなでると、子供扱いしないでくれる、と軽く払われてしまった。ほんと、三ちゃんは可愛いね、と笑うと、嬉しくないよ、と三治郎も笑った。





(…そういえば、よく僕以外の人間が罠に掛からなかったね)
(え?)
(保健委員も引っかからないなんてすごいと思って)
(そんなの、当たり前でしょ?)
(?どうして?)
(だって、)


『だって貴方専用の罠だもの』


(他に引っ掛けるようなこと僕がすると思う?)
(思わない、けど)
(けど、何?)
(三ちゃん、それって…)


なんてすごい殺し文句!






………………………………………

『一ニ飛ばして三のお前』様に提出させていただきました。

初めての初夢です。お互いべたぼれだといいな、と。天然王子初島と天然小悪魔夢前を目指してみたらこんなんなりました。


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あきゅろす。
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