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飴色模様(ろじいす/ 年齢操作)
※年齢操作(ろじ→6年、伊助→5年)
※後輩描写あり
















ふわり。甘いにおいが鼻をくすぐる。
傍らを見やれば、伊助。焔硝蔵の中で甘いにおいなどするわけもないし、おそらく伊助から漂ってくるのだろう。
「伊助」
「はい?」
ふわり。
伊助が振り向くと、それに合わせてまた甘いにおいが広がる。柔らかなにおいを確かめるように顔を寄せると、小首を傾げたまま、伊助が固まった。

「あああああの、三郎次先輩?」

お、真っ赤になった。
くつり、喉で笑って顔を離す。馬鹿にされたとでも思ったか、伊助の眉がひそめられる。何なんですか、と呟く声は不機嫌丸出し。こらえ切れずに、くつくつと笑いを零す。
「何なんですかもう!」
「いや?お前から甘いにおいがしたから」

お前面白ぇんだよ、なんて言ったら、こいつはますます面白いことになるんだろうが。
こいつの機嫌をあんまり損ねると後が怖い…というか面倒くさいんだよなぁ。

「…甘いにおいって、これじゃないでしょうか」
「ん?」
一瞬、あらぬ方向に飛んだ思考を引っ張り戻す。
これです、と伊助が懐から出した包みを開く。丸い何かがぶつかりあって、かつりと軽く音を立てた。
「…何だ、これ」
「飴ですよ」
しんべヱにもらったんです。一人じゃ食べきれないし、委員会のみんなにもあげようと思って。

へぇ、と適当に相槌を打ちながら、包みから一つとり出す。外からの光にかざせば、とろり、べっ甲色がきらめいた。

「…あの、先輩、今日って在庫確認だけですよね」
「ああ。……もう終わりだし、あいつらにはやってもいいぞ」
その飴。

言えば、目を見開いて、けれどすぐに嬉しそうに顔をほころばせた。
…お前の考えてることくらいわかるに決まってんだろうが。

一つ溜息をついて、伊助の手の包みから何個か取り出す。
「え、あの、先輩?」
「あっちで確認してる奴らにやってくる」
俺も一個もらうからな。

踵を返せば、「あ、お、お願いします」と少し慌てた気配。軽く応えて、離れて確認作業を行っていた後輩たちを呼ぶ。
「どうしたんですかぁ?」
「確認作業終わりましたよ?」
「そうか」
お疲れ、と軽く頭を撫でてやってから、口を開けさせる。かろり、と一個ずつ放ってやれば、突然の甘さに心底驚いたようだ。目をこれでもかと見開いている。
「伊助からもらった。後で礼言っとけよ」
もう一度、わしりとそれぞれの頭を撫でてやれば、「はぁい」と元気な声が返る。飴を堪能する後輩たちに、在庫表忘れるなよ、と釘をさしてから伊助の元へ向かう。適当に引っ掴んだからか、手の中には二つ飴が残っている。一つは俺がもらうにしても、もう一つは返さねばなるまい。
かろり、一つを口に放り込んで柔らかな甘さを楽しむ。強過ぎない甘さが、心地好い。

…ああ、なんか伊助みたいだな。

ふと、そんな思考が頭をよぎる。優しい甘さが、ふわりとした伊助の笑みと重なる。
…あいつの優しさがひどく心地好いだなんて、口が裂けても言わないが。言ったら調子に乗るに決まってる。
とつとつとそんな事を考えていれば、さして広くない蔵の中だ、すぐに相手のもとに辿り着く。伊助、と軽く名を呼べば、後輩たちの前にしゃがみ込んでいた伊助は、ぱっとこちらに寄ってくる。
「どうしました」
「一個余った」
「あ、はい。ありがとうございます」
ずい、と片手を突き出して、ふとあることに気づく。
「そういえばお前、飴食ったか?」
「へ?いえ…」
まだですけど、と目を瞬かせる伊助に、口開けろ、と一言だけ言って、伊助の口の中に飴を放り入れる。かろり、とべっ甲色の粒が軽やかな音を立てた。

「三郎次先輩…」
困ったような声に、見れば、伊助の顔は真っ赤になっていて。何事かと思考を巡らせれば、はた、と先程の自らの行動がよみがえる。
後輩たちにやった時は気付かなかった。けれど、先程の行動は、……いわゆる、「はい、あーん」というやつで。先輩後輩の間柄でやるのに抵抗のある行為ではないが、俺と伊助は…仮にも、そういう関係なわけで。

思い至って、一気に恥ずかしさが襲う。頬に血が上るのがわかった。
誤魔化すようにがしがしと自分の頭を掻いていると、「えへへ」と嬉しそうな声が聞こえた。

「…何だよ」
「いえ…」
ありがとうございます。
ふわり、真っ赤になったまま、伊助が幸せそうに微笑む。
先程、伊助のことを考えていたからか、口に入れた飴の甘いにおいと味が目の前の伊助の笑顔と重なった。くらりとするほどの、甘さ。

心拍数が、…上がる。

「三郎次せんぱーい」
「伊助せんぱぁい」
「……っ」
無邪気な声に、我に返った。
在庫確認完璧ですー、伊助先輩ごちそうさまでしたー、などと口々に言いながら寄ってくる後輩たちに今日の委員会の終了を告げ、在庫表を受け取る。
全員を追い出すように外に出し、一人で最後に中を見回る。口の中で、飴の最後の欠片が、とろりととろけたのを感じて、一人なのをいいことに大きく一つ溜息をついた。

…一瞬、理性が危なくなったなんて、たまごとはいえ忍者失格だろう、とひとりごちる。
口の中には、甘い甘い味とにおいがまだ残っている。

しばらく、消えてくれそうにはなかった。




あまい、あまい。
甘過ぎないはずなのに、後まで残って、なかなか消えてくれない。


…ああ、やっぱり伊助みたいじゃないか。


呟いて、焔硝蔵の中に残った、甘いにおいを吸い込んだ。







………………………………………
「君よ、優しくあれ」様に参加させて頂きました。

振り回し、振り回されるろじいすが書きたかったんですが……。ろじがつんでれくさくないのは仕様ですすみません…。


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あきゅろす。
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