★ スタホ殺人事件 ★
怪物登場
気が重い駿介はなかなか亞穂菜のところに行く気になれなかった。
レースは共同通信杯。
サテの出馬表を見て駿介は我が目を疑った。
@番人気が居闇の馬だ。しかもオッズが2.5倍だ。居闇の厩舎に怪物がいるとは。
でもちょっと待てよ、居闇の厩舎はJCで見た2頭と中山金杯で見た2頭の4頭のはずだ。こんな怪物が産まれる要素はないはず…
『うっ、嘘…。』
駿介は絶句した。
大画面に映し出された居闇の2.5倍馬『トロッコトロトロ』の父馬は『マンモスオカワリ』、母馬は『ハルウララ』と表示されている。
「究極のヒキあたりかよ!」
有り得ない、有り得ないヒキだ。
これを師匠であるザパンさんが見たら何と言うだろうか…。
ザパンさんとは駿介にスタホ2の素質馬作成の基礎を叩き込んでくれた、駿介のサブ店舗で殿堂馬を独占する敏腕プレイヤーである。
「師匠、最近馬が走らないって言ってたからなぁ…。」
ふと駿介はそんなことを考えてしまった。
伊井はまだ気付いていない。
『伊井…、これ…。』
駿介がサテを指差し、伊井にサテを見るように促すと、『ホギャッ?!(=゜ω゜)ノ』と伊井がびっくりして素っ頓狂な声を出した。
伊井の仕草に駿介は思わず笑ってしまった。
しかし、こんなヒキあたりはめったにお目にかかれるものではない。いやはやお見事というよりほかに言葉がない。
しかも良く見ればどうやら白毛のようだ。
駿介は思わずお世話になっているスタホ攻略掲示板で見たWildさんという人の化け物白毛SSを思い出した。
「Wildさんはあんなに苦労して、こだわって白毛作ったのに、こいつはハルウララで白毛の怪物かよ…。」
このことを掲示板に書いたらWildさんはどんな反応をするのか、駿介は少し楽しみになった。
しかし、レースは『トロッコトロトロ』は早マクりで直線失速し、出走していたB番人気の亞穂菜の『ショッキングピンク』に差し返されたあと、馬群に飲み込まれてD着だった。
『勝っちゃいました!』
亞穂菜が満面の笑みで駿介に報告に来た。しかも右手でVサイン作りながら…
「あちゃ…。」
最悪のタイミングだ。
亞穂菜に悪気はないのだろうが、駿介の隣は居闇だ。イライラし始めているのが伝わってくる。
『おめでとう、強かったね。』
駿介がそう言った瞬間に、居闇がサテを「バンッ!」と叩いて席を立った。
「あちゃ、油注いじゃた…。」
『亞穂菜ちゃん、こいつ伊井って言うんだ。俺のスタホ友達。』
駿介は慌てて亞穂菜に伊井を紹介した。
『そうなの?』
亞穂菜はあまり興味がないような素振りながらも伊井の方に振り向いて
『よろしくお願いします。』
と言ったあと、伊井に向かってペコリと頭を下げた。
『あ、あ〜、俺、伊井って言います。よ、よろぴこ…。』
伊井がガチガチに緊張しているのが可笑しかった。
しかも「よろぴこ」ってお前幾つだよ…。
『今日は調子良いかも!』
亞穂菜は駿介の方を向き直って、またもVサインを作って微笑んだ。
「お願いだからそっとしておいてくれよ…。」
駿介は居闇の態度が気になっていたが、当の居闇は席を立ってさっさとトイレに向かっているのが駿介の視界に入った。
『亞穂菜ちゃん、調教しないと。』
『あっ、忘れてたぁ〜!』
駿介に言われて亞穂菜は急いでサテに戻って行った。
「やれやれ…。」
ホッと胸を撫で下ろしたところに
『駿介…。』
力なく伊井が駿介に語りかけてくる。
『な、何だよ、気持ち悪いよ、お化けみたいな声出して。』
お化けの声は知らないが、あまりにも情けない伊井の声に的外れな応えをしてしまった。
『亞穂菜ちゃんに嫌われたよね、間違いなく嫌われたよね。』
伊井は今にも泣き出しそうな瞳に涙を浮かべ駿介に話し掛ける。
『い、いや、そんなことないだろう?「よろぴこ」ってウケたんじゃない?』
駿介は全くそうは思っていなかったが、あまりにも予想もできない伊井の態度を見て、そう言わざるを得なかった。
『そ、そうか、ウケたか!』
みるみる伊井の表情がほころんでくる。
「現金な奴だよなぁ、全く…。」
駿介も思わず可笑しくなって笑ってしまった。
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