★ スタホ殺人事件 ★
激突
駿介の携帯が鳴った。
携帯を開くと、プニオさんからのメールだった。
「SWBC勝ちましたよ!オッズは4.3倍でぶっちぎりました。」
プニオさんは掲示板を通じて駿介とスタホネットの同じクラブに入っているのだが、昨日の掲示板に「SS発動して悲願のSWBCでの全制覇を狙う」と書き込んでいたのだった。
「マジでいきなりSW出して勝ったのかよ!」
何はともあれ嬉しい報告だ。少し駿介の心が晴れやかになった。
しかし、隣に目をやると居闇はサテに戻ってからも少しイライラしている様子が見てとれる。
弥生の登録状況を見ると居闇の『トロッコトロトロ』と亞穂菜の『ショッキングピンク』が登録されている。
「あちゃちゃ…。」
駿介は気が重くなった。普段なら居闇の馬など眼中にない。
しかし、今日は隣に座っていて、珍しく怪物ができて出走してきた。しかも居闇自身は今日まだレースに勝っていない。
「亞穂菜にまた負けたら…。」
いつになく駿介は居闇の態度が気になっていた。
弥生になった。
居闇の『トロッコトロトロ』が@番人気2.4倍、亞穂菜の『ショッキングピンク』が3.8倍だ。タキオンがA番人気になっている。
レースはコースこそ違うが共同と同じ展開で、『トロッコトロトロ』が早マクりする。
「あ〜、最悪…。」
誰が見ても『トロッコトロトロ』は直線垂れるパターンだ。
居闇は必死にペイボタンを連打しているが、直線に入ってすぐにランプは消え始め、前にいた『ショッキングピンク』は逆にサテのランプが光り始めている。
@着『ショッキングピンク』
A着『アグネスタキオン』
居闇の『トロッコトロトロ』はまたもD着だった。
『また勝ちましたよ〜♪』
亞穂菜がまたも満面に笑みを浮かべて駿介に近づいて来た。右手でVサインを作りながら…。
駿介はできるだけ手短にアドバイスをして亞穂菜をサテに返した。亞穂菜は帰り際に伊井に向かって『勝ったぴょ〜ん♪』とVサインして行った。
『「勝ったぴょ〜ん♪』だって!』
伊井がさっきとは別人の顔で駿介に報告してくる。
『ピコでもぴょんでもどっちでもいいよ。』
駿介は力なく伊井に返したが、伊井は舞い上がっていた。
「ったく、あいつは中学生かよ…。」
あまりの変わりように駿介は呆れ果てていた。
左隣では明らかに居闇がイライラしているのがわかる。
「はぁ…最悪の環境だ…。」
レースはスプリングステークスになった。
ため息をつきながらスプリングの出走表を見ると…
@番人気3.3倍『トロッコトロトロ』
A番人気3.5倍『スカイエメラルド』
B番人気4.0倍『ショッキングピンク』
何と伊井の馬まで参戦してやがる。駿介は一段とブルーになる。完全にオッズが割れている。
『一応怪物コメね。』
ご機嫌に伊井が話し掛けて来る。
『もう勝手にしてくれ…』
駿介はヤケになりかかっていたが、亞穂菜も伊井もまるで居闇の態度など関係ない。当たり前だが、たまたま駿介は居闇の隣に座っているから居闇のイライラがわかって気になっているだけなのだから、亞穂菜も伊井も悪気がある訳でも、バカなことをしている訳でもない。
「今回は居闇が勝ってイライラが収まりますように…」
駿介は珍しくそう願ったが、レースは三度『トロッコトロトロ』が早マクり、追込の『スカイエメラルド』がバイアリーばりの末脚で追い込み、前で粘る『ショッキングピンク』を頭差差し切った。
『トロッコトロトロ』は掲示板がやっとの3戦連続D着だった。
亞穂菜が席を立ってこちらに向かってくる。居闇は『ったくよ!』と吐き捨ててサテを一発殴った。
「亞穂菜ちゃん、今度はここではしゃがないでくれよ…。」
駿介はそう祈うと、亞穂菜は駿介のところには来なかった。
『あたし、負けないから!宣戦布告よ!どっからでもかかってきな!』
亞穂菜は伊井の前に立って右人差し指を伊井に向けてそう言い放った。伊井は目が点になって固まっている。微動だにしない。いや、できないでいる。
駿介は思わず吹き出した。
「宣戦布告って…、花男のつくしかよ!」
亞穂菜は頬をこれ以上ないくらい膨らますと、プイっと踵を返して自分のサテに戻って行った。
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